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本判決の位置づけ

共同相続された投資信託受益権と個人向け国債は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないと判断しました。

事案の概要

(1) XらとYは、被相続人Aの子であったところ、Aは平成17年9月30日に死亡しました。
(2) Aの相続財産には、投資信託受益権、国債及び株式(以下「本件国債等」といいます。)があったところ、Yは遺産の分割等の審判を申立て、Xら及びYが、本件国債等を相続分の割合で共有することを内容とする遺産分割審判がされました。
(3) Xらは、Yに対し、主位的請求として、本件国債等の共有物分割を求めるとともに、共有物分割に係る訴えが不適法とされた場合の予備的請求として、国債及び投資信託受益権につきXらとYが法定相続分に応じた割合で分割して取得することができるようにする手続を行うこと、株式につきXらが法定相続分に応じた割合で取得することができるよう名義書換手続を行うことを求めました。
(4) 原審は、主位的請求について、本件国債等は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割され、共同相続人の準共有となることがないとして、主位的請求に係る訴えを不適法なものとして却下し、予備的請求についても不適法なものとして却下しました。

判決文(抜粋)

(1) 株式は、株主たる資格において会社に対して有する法律上の地位を意味し、株主は、株主たる地位に基づいて、剰余金の配当を受ける権利(会社法105条1項1号)、残余財産の分配を受ける権利(同項2号)などのいわゆる自益権と、株主総会における議決権(同項3号)などのいわゆる共益権とを有するのであって、このような株式に含まれる権利の内容及び性質に照らせば、共同相続された株式は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。
(2) 委託者指図型投資信託(投資信託及び投資法人に関する法律2条1項)に係る信託契約に基づく受益権は、口数を単位とするものであって、その内容として、法令上、償還金請求権及び収益分配請求権(同法6条3項)という金銭支払請求権のほか、信託財産に関する帳簿書類の閲覧又は謄写の請求権(同法15条2項)等の委託者に対する監督的機能を有する権利が規定されており、可分給付を目的とする権利でないものが含まれている。このような上記投資信託受益権に含まれる権利の内容及び性質に照らせば、共同相続された上記投資信託受益権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。
外国投資信託は、外国において外国の法令に基づいて設定された信託で、投資信託に類するものであり(投資信託及び投資法人に関する法律2条22項)、上記投資信託受益権の内容は、必ずしも明らかでない。しかし、外国投資信託が同法に基づき設定される投資信託に類するものであることからすれば、上記投資信託受益権についても、委託者指図型投資信託に係る信託契約に基づく受益権と同様、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものとする余地が十分にあるというべきである。
(3) 国債は、個人向け国債の発行等に関する省令2条に規定する個人向け国債であるところ、個人向け国債の額面金額の最低額は1万円とされ、その権利の帰属を定めることとなる社債、株式等の振替に関する法律の規定による振替口座簿の記載又は記録は、上記最低額の整数倍の金額によるものとされており(同令3条)、取扱期間の買取りにより行われる個人向け国債の中途換金(同令6条)も、上記金額を基準として行われるものと解される。そうすると、個人向け国債は、法令上、一定額をもって権利の単位が定められ、1単位未満での権利行使が予定されていないものというべきであり、このような個人向け国債の内容及び性質に照らせば、共同相続された個人向け国債は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。

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