本判決の内容(抜粋)
- 最高裁昭和54年5月31日第一小法廷判決
- 自筆証書によって遺言をするには、遺言者は、全文・日附・氏名を自書して押印しなければならないのであるが(民法九六八条一項)、右日附は、暦上の特定の日を表示するものといえるように記載されるべきものであるから、証書の日附として単に「昭和四拾壱年七月吉日」と記載されているにとどまる場合は、暦上の特定の日を表示するものとはいえず、そのような自筆証書遺言は、証書上日附の記載を欠くものとして無効であると解するのが相当である。
前提知識と簡単な解説
遺言の方式について
遺言者の真意を確保するため、遺言は、民法が定める厳格な方式に従うことを要します(民法960条)。
遺言は、特別な方式によることを許す場合を除いては(民法967条ただし書)、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければなりません(民法967条本文)。自筆証書遺言は、遺言者がその全文、日付及び氏名を自書し、これに押印しなければなりません(民法968条1項)。
自筆証書遺言における日付の役割
遺言者は、遺言をする時において、遺言能力を有しなければならないとされているところ(民法963条)、遺言能力を判断する時期としての意味をもちます。
また、遺言の方式につき、特別な方式によることを許す場合(民法967条ただし書)であるか否かを決定する上でも重要です。
さらに、複数の遺言があった場合において、前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなすとされていることからも(民法1023条1項)、遺言成立の日が重要な意味をもってきます。
本判決の意義
本判決は、自筆遺言証書の日付として「吉日」と記載された証書の効力について、「暦上の特定の日を表示するものとはいえず、そのような自筆証書遺言は、証書上日附の記載を欠くものとして無効である」と判示しました。