本判決の位置づけ
共益債権に当たる債権を有する者は、共益債権に当たる債権につき、再生債権として届出がされ、再生計画案を決議に付する旨の決定がされた場合には、当該債権が共益債権であることを主張して再生手続によらず行使することは許されない、と判断しました。
事案の概要
(1) Aは、Bとの間で、船舶1隻を目的とする売買契約を締結し、Aは、Bから、前受金として売買契約の代金の一部(以下「本件前受金」といいます。)を受領しました。Xは、Aからの委託を受け、Bに対して、本件前受金の返還に係る債務につき保証しました。
(2) Aは、再生手続開始の決定を受け、、その管財人に選任されたYは、Bに対し、民事再生方49条1項の規定に基づき、本件売買契約を解除する旨の意思表示をしました。
(3) Bは、再生裁判所に対し、本件前受金の返還債権及びこれに対する約定利息(以下「本件前受金返還債権等」といいます。)について、再生債権として届出をしました。この届出においては、本件前受金返還債権等につき再生債権として届出がされただけで、本来共益債権であるものを予備的に再生債権であるとして届出をする旨の付記はされませんでした。
(4) Yは、再生債権の調査において、本件前受金返還債権等を認め、他の届出再生債権者も、調査期間内に異議を述べませんでした。
(5) 再生裁判所は、再生計画案を決議に付する旨の決定をし、同再生計画案は可決されました。これを受けて、再生裁判所は、再生計画の認可の決定をし、同決定は、確定しました。
(6) Xは、Bに対し、保証債務の履行として本件前受金の返還に係る債務を代位弁済しました。Xは、これに基づき、再生裁判所に対し、本件前受金返還債権等を当該代位弁済額の範囲で承継した旨の届出をしました。
(7) Xは、Yに対し、本件前受金返還債権等が共益債権であると主張して訴訟を提起しました。
判決文(抜粋)
民事再生法上の共益債権に当たる債権を有する者は、当該債権につき再生債権として届出がされただけで、本来共益債権であるものを予備的に再生債権であるとして届出をする旨の付記もされず、この届出を前提として作成された再生計画案を決議に付する旨の決定がされた場合には、当該債権が共益債権であることを主張して再生手続によらずにこれを行使することは許されないと解するのが相当である。
なぜならば、民事再生法95条によれば、再生債権者は、再生計画案を決議に付する旨の決定がされた後においては、届出の追完をし、又は届け出た事項について他の再生債権者の利益を害すべき変更を加えることができないとされているところ、再生計画案を確定させ、再生手続の安定を図るという観点からすれば、本来共益債権であるものを予備的に再生債権であるとして届出をする旨の付記がされることなく再生債権として届出がされた債権につき、当該届出を前提として再生計画案が作成され、これを決議に付する旨の決定がされた後に、同再生計画案において再生債権とされている債権につきこれを共益債権として再生手続によらずに行使することが不適切であることは明らかであるからである。
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関連条文
- 民事再生法第95条
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- 再生債権者がその責めに帰することができない事由によって債権届出期間愛に届出をすることができなかった場合には、その事由が消滅した後1月以内に限り、その届出の追完をすることができる。
- 前項に定める追完の期間は、伸長し、又は短縮することはできない。
- 債権届出期間経過後の生じた再生債権については、その権利の発生した後1月の普遍期間内に、届出をしなければならない。
- 第1項及び第3項の届出は再生計画案を決議に付する旨の決定がされた後は、することができない。
- 第1項、第2項及び前項の規定は、再生債権者が、その責めに帰することができない事由によって、届け出た事項について他の再生債権者の利益を害すべき変更を加える場合について準用する。
- 民事再生法第49条
- 1. 双務契約によって再生債務者及びその相手方が再生手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、再生債務者等は、契約の解除をし、又は再生債務者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。
5. 破産法第54条の規定は、第1項の規定による契約の解除があった場合について準用する。この場合において、同条第1項中「破産債権者」とあるのは「再生債権者」と、同条第2項中「破産者」とあるのは「再生債務者」と、「破産財団」とあるのは「再生債務者財産」と、「財団債権者」とあるのは「共益債権者」と読み替えるものとする。
- 破産法第54条
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- 前条第1項又は第2項の規定により契約の解除があった場合には、相手方は、損害の賠償について破産債権者としてその権利を行使することができる。
- 前項に規定する場合において、相手方は、破産者の受けた反対給付が破産財団中に現存するときは、その返還を請求することができ、現存しないときは、その価額について財団債権者としてその権利を行使することができる。