本判決の内容(抜粋)

最高裁昭和40年12月3日第二小法廷判決

 しかし、債務者の債務不履行と債権者の受領遅滞とは、その性質が異なるのであるから、一般に後者に前者と全く同一の効果を認めることは民法の予想していないところというべきである。民法四一四条・四一五条・五四一条等は、いずれも債務者の債務不履行のみを想定した規定であること明文上明らかであり、受領遅滞に対し債務者のとりうる措置としては、供託・自動売却等の規定を設けているのである。されば、特段の事由の認められない本件において被上告人の受領遅滞を理由として上告人は契約を解除することができない旨の原判決は正当であって、論旨は採用することができない。

前提知識と簡単な解説

受領遅滞について

受領遅滞とは、「債務の履行につき受領その他債権者の協力を必要とする場合において、債務者が債務の本旨にしたがった履行の提供をなしたにもかかわらず、債権者がその協力をなさないために、履行遅滞の状態にあること」をいいます(於保不二雄『債権総論』)。

民法は、受領遅滞について、「債権者は、履行の提供があったときから遅滞の責任を負う」(平成29年改正前民法413条)とのみ規定していたことから、受領遅滞の法的性質、要件及び効果について、解釈の争いがありました。

この点について、債権者に一般的な受領義務を認めず、受領遅滞の法的性質は公平の観点から信義則上認められた法的責任であると解する見解(法定責任説)と、債権者に一般的な受領義務を認め、受領遅滞は債権者の債務不履行であると解する見解(債務不履行責任説)があります。債務不履行責任説によれば、債権者にその責に帰すべき受領義務違反があれば、その効果として、債務者に損害賠償請求権及び解除権が認められることとなります。

本判決の意義

本判決は、「債務者の債務不履行と債権者の受領遅滞とは、その性質が異なる」、「一般に後者に前者と全く同一の効果を認めることは民法の予想していないところというべき」と判示して、債権者の受領遅滞を理由とする契約の解除を認めませんでした。