本判決の内容(抜粋)
- 最高裁昭和44年6月24日第三小法廷判決
債権者代位権は、債権者の債権を保全するために認められた制度であるから、これを行使しうる範囲は、右債権の保全に必要な限度に限られるべきものであって、債権者が債務者に対する金銭債権に基づいて債務者の第三債務者に対する金銭債権を代位行使する場合においては、債権者は自己の債権額の範囲においてのみ債務者の債権を行使しうるものと解すべきである。ところで、本件において原審の確定するところによれれば、債権者たる被上告人の訴外会社に対する債権は、元本は二、三一二、三六四円八〇銭ではあるが、遅延損害金の利率が年六分であるため、原審の口頭弁論終結時における元利合計額は四四〇万円に満たないのに反し、債務者たる訴外会社の一審被告ら八名に対する各債権は、元本こそ二〇〇万円であるが、その遅延損害金の利率が日歩四銭であるため、前同日までの元利合計額は六六〇万円を超えることが計数上明らかである。そうであれば、被上告人としては、前記自己の債権額を超えて訴外会社の一審被告らに対する前記請求債権の全額についてこれを代位行使することはできないものといわなければならない。
前提知識と簡単な解説
以下の解説において掲げる条文は、特に記載のない限り、本件当時に適用される法令の規定に従っています。債権者代位権
債権者代位権は、債務者が一般財産の減少を放置する場合に、債権者が代わってその減少を防止する措置を講じる制度であり、債権者は自己の債権を保全するために債務者に属する権利を行使することができます(民法423条1項本文)。代位行使の効果
判例は、第三者に対して金銭債権を行使するに当たっては、直接自己に対して金銭を給付することを求めることができるとしてきました(大審院昭和10年3月12日判決等)。本判決は、金銭債権を代位行使する場合に、その行使できる範囲について、「債権者代位権は、債権者の債権を保全するために認められた制度であるから、これを行使しうる範囲は、右債権の保全に必要な限度に限られるべきものであって、債権者が債務者に対する金銭債権に基づいて債務者の第三債務者に対する金銭債権を代位行使する場合においては、債権者は自己の債権額の範囲においてのみ債務者の債権を行使しうるものと解すべきである」と判示しました。
遅延損害金について
金銭債務の履行遅滞による損害賠償の額には特則が設けられており、損害賠償額は法定利率(民法404条)によって定めるのを原則とし、これより高い約定利率が定められているときには、約定利率によって定めることとされています(民法419条1項)。本判決では、代位権行使の範囲を画する「債権額」は、元本債権だけでなく、遅延損害金を含む合計額を基準として計算しています。