本判決の内容(抜粋)

最高裁昭和54年3月16日第二小法廷判決

 債権者代位訴訟における原告は、その債務者に対する自己の債権を保全するため債務者の第三債務者に対する権利について管理権を取得し、その管理権の行使として債務者に代り自己の名において債務者に属する権利を行使するものであるから、その地位はあたかも債務者になり代るものであって、債務者自身が原告になった場合と同様の地位を有するに至るものというべく、したがって、被告となった第三債務者は、債務者がみずから原告になった場合に比べて、より不利益な地位に立たされることがないとともに、原告となった債権者もまた、その債務者が現に有する法律上の地位に比べて、より有利な地位を享受しうるものではないといわなければならない。そうであるとするならば、第三債務者である被告の提出した債務者に対する債権を自働債権とする相殺の抗弁に対し、代位債権者たる原告の提出することのできる再抗弁は、債務者自身が主張することのできる再抗弁事由に限定されるべきであって、債務者と関係のない、原告の独自の事情に基づく抗弁を提出することはできないものと解さざるをえない。しかるに、本件において被上告人の提出した権利濫用の抗弁について原審がこれを採用した理由として判示するところは、要するに、上告人の相殺の主張は、訴外会社に対する関係ではともかく、被上告人との関係においては取引の信義則に反し権利の濫用として許されない、というのであるが、債権者代位訴訟における当事者の地位に関する前記説示に照らすと、本訴債権が相殺により消滅したと本件訴訟において主張することが訴外会社にとっては信義則に反し権利の濫用とならないため相殺による本訴債権の消滅を肯定すべき場合においても、なお被上告人との関係においては右相殺の主張が取引の信義則に反し権利の濫用となるものとして相殺の主張が容れられないものとすることは、債権者代位訴訟である本件訴訟の性質からみて、債権者たる原告の地位を債務者が訴訟を追行する場合に比して有利にするものとして、許されないものといわなければならない。

前提知識と簡単な解説

以下の解説において掲げる条文は、特に記載のない限り、本件当時に適用される法令の規定に従っています。

債権者代位権

債権者代位権は、債務者が一般財産の減少を放置する場合に、債権者が代わってその減少を防止する措置を講じる制度であり、債権者は自己の債権を保全するために債務者に属する権利を行使することができます(民法423条1項本文)。

債権者代位権を行使する債権者の地位

債権者は、債務者に代位して債務者の権利を行使するものであるため、相手方である第三債務者は、債務者が自らその権利を行使する場合に比して不利益な地位におかれるべき理由はありません(於保不二雄『債権総論〔新版〕』)。そこで、第三債務者は債務者に対して有する抗弁をもって債権者に対抗することができます(相殺の抗弁について大審院昭和11年3月23日判決)。
本件では、そのような第三債務者の抗弁に対して債権者が提出しうる再抗弁の範囲が問題となりました。
本判決は、「被告となった第三債務者は、債務者がみずから原告になった場合に比べて、より不利益な地位に立たされることがないとともに、原告となった債権者もまた、その債務者が現に有する法律上の地位に比べて、より有利な地位を享受しうるものではない」から、「第三債務者である被告の提出した債務者に対する債権を自働債権とする相殺の抗弁に対し、代位債権者たる原告の提出することのできる再抗弁は、債務者自身が主張することのできる再抗弁事由に限定されるべきであって、債務者と関係のない、原告の独自の事情に基づく抗弁を提出することはできないものと解さざるをえない」と判示しました。

追記:平成29年民法(債権関係)改正について

平成29年民法改正では、第三債務者は、債務者に対して主張することができる抗弁をもって、債権者に対抗することができる旨が明文化されています(改正民法423条の4)。