公営住宅の入居者が死亡した場合に、「その相続人が公営住宅を使用する権利を当然に承継すると解する余地はない」と判示しました。

判決文(抜粋)

最高裁平成2年10月18日第一小法廷判決
 公営住宅法は、住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で住宅を賃貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とするものであって(一条)、そのために、公営住宅の入居者を一定の条件を具備するものに限定し(一七条)、政令の定める選考基準に従い、条例で定めるところにより、公正な方法で選考して、入居者を決定しなければならないものとした上(一八条)、さらに入居者の収入が政令で定める基準を超えることになった場合には、その入居年数に応じて、入居者については、当該公営住宅を明け渡すように努めなければならない旨(二一条の二第一項)、事業主体の長については、当該公営住宅の明渡しを請求することができる旨(二一条の三第一項)を規定しているのである。
 以上のような公営住宅法の規定の趣旨にかんがみれば、入居者が死亡した場合には、その相続人が公営住宅を使用する権利を当然に承継すると解する余地はないというべきである。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。

前提知識と簡単な解説

相続の効力

相続は、被相続人の死亡によって開始し(民法882条)、相続人は、相続開始の時から、被相続人の一身に専属したものを除き(民法896条ただし書)、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条本文)。

問題の所在

一般的に賃借権も通常の権利として相続の対象となると解されています(中川善之助『相続法』)。
公営住宅の使用に関する法律関係については、公法関係であるか又は私法関係であるのか、議論があったものの、判例は、「入居者が右使用許可を受けて事業主体と入居者との間に公営住宅の使用関係が設定されたのちにおいては、前示のような法及び条例による規制はあっても、事業主体と入居者との間の法律関係は、基本的には私人間の家屋賃貸借関係と異なるところはな(い)」と解しています(最高裁昭和59年12月13日第一小法廷判決)。
そこで、公営住宅の使用に関する法律関係についても、私法上の賃貸借関係として、民法の相続法に関する規定が適用されるのではないかが問題となります。
もっとも、公営住宅は、住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸等されることを目的とした住宅であるところ、入居資格は法律上限定されており、また公営住宅の供給を行う地方公共団体においては、政令で定められた選考基準に従い、公正な方法で選考することが義務付けられています(公営住宅法)。そのため、このような公営住宅について、相続による使用権の当然承継を認めるとすれば、入居資格のないものであっても、公営住宅に入居することができることになってしまいます。
この点について、本判決は、「公営住宅法の規定の趣旨にかんがみれば、入居者が死亡した場合には、その相続人が公営住宅を使用する権利を当然に承継すると解する余地はない」と判示しました。