本判決の内容(抜粋)
- 最高裁昭和30年10月11日第三小法廷判決
民法四二四条に依る債権者の取消権は、債権者の債権を保全するためその債権を害すべき債務者の法律行為を取消す権利であるから、債権者は故なく自己の債権の数額を超過して取消権を行使することを得ないことは論を待たないが、債務者のなした行為の目的物が不可分のものであるときは、たとえその価額が債権額を超過する場合であっても行為の全部について取消し得べきことは、すでに大審院判決の示したとおりである(明治三六年一二月七日大審院判決、民録九巻一三四五頁、大正七年五月一八日同判決、民録二四巻九九五頁、大正五年一二月六日同判決、民録二二巻二三七三頁、大正九年一二月二四日同判決、民録二六巻二〇二四頁各参照)。そして、原審の確定した事実によれば、Dが上告人に贈与したものは一棟の建物であるから贈与の目的物はもとより不可分なので、右建物の時価は五四万円でありその処分当時の被上告人Dに対する債権額は四五万円であったとしても、被上告人がその債権額を超えた前記贈与の全部を取消し得るものとした原審の判断は、前記判例の趣旨に副うところであるから、原判決は結局において正当である。
前提知識と簡単な解説
以下の解説は、特に記載のない限り、本件当時に適用される法令の規定に従っています。詐害行為取消権
債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができます(民法424条1項本文)。この債権者の権利を「詐害行為取消権」といいます。詐害行為取消権は、債務者の責任財産を保全するために、一般財産を減少させる債務者の行為の効力を否認して、債務者の一般財産から逸出したものを取り戻すことを目的とします。取消の範囲
詐害行為取消権は、債権の共同担保を保全することを目的とするため、取消の範囲は、共同担保を保全するために必要な範囲に限られます。このような観点から、大審院判例は、目的物が可分であるときは、被保全債権額の限度で、詐害行為の一部のみを取り消すことができるとし(大審院明治36年10月11日判決)、ただ、債権保全のために必要な場合には、その債権額を超えて、詐害行為を取り消すことができるとしていました(大審院大正5年12月6日判決、大審院大正9年12月24日判決)。
本判決は、このような大審院判例の立場を踏まえ、目的物が不可分のときには、たとえ目的物の価額が債権額を超える場合でも、債権者は、詐害行為の全部を取り消すことができると判断したものといえます。