事案の概要
上告人Xが債務者Dから自己の債権を確保するため譲渡担保として動産を譲り受けたところ、Dの債権者であった被上告人Yは、当該譲渡担保契約は一般債権者を害するものであるとし、Yの債権額に相当する部分の取消と価格賠償を求めました。この訴訟において、Yの請求を認める旨の勝訴判決があり、XはYに対して価格賠償金を支払いました。その後、Xは、Yに対し、この判決による詐害行為の取り消しは、総債権者の利益のために効力を生ずるから、YがXより支払を受けた金員も総債権者の間で分配されるべきであると主張して、総債権額に対する自己の債権額の割合による金員の支払を求めて、本訴を提起しました。
本判決の内容(抜粋)
- 最高裁昭和37年10月9日第三小法廷判決
詐害行為の取消は、総債権者の利益のためにその効力を生ずる(民法四二五条)。すなわち、取消権の行使により、受益者又は転得者から取戻された財産又はこれに代る価格賠償は、債務者の一般財産に回復されたものとして、総債権者において平等の割合で弁済を受け得るものとなるのであり、取消債権者がこれにつき優先弁済を受ける権利を取得するものではない。このことは取消債権者が取消権行使により財産又は価格賠償を自己に引渡すべきことを請求し、よってその引渡を受けた場合においても変ることはない。しかしながら、債権者が債務者の一般財産から平等の割合で弁済を受け得るというのは、そのための法律上の手続がとられた場合においてであるというにすぎない。従って上告人の本訴請求にあるように取消債権者が自己に価格賠償の引渡を受けた場合、他の債権者は取消債権者の手中に入った右取戻物の上に当然に総債権者と平等の割合による現実の権利を取得するものではない。また、取消債権者は自己に引渡を受けた右取戻物を債務者の一般財産に回復されたものとして取扱うべきであることは当然であるが、それ以上に、自己が分配者となって他の債権者の請求に応じ平等の割合による分配を為すべき義務を負うものと解することはできない。そのような義務あるものと解することは、分配の時期、手続等を解釈上明確ならしめる規定を全く欠く法のもとでは、否定するのほかない。
前提知識と簡単な解説
以下の解説は、特に記載のない限り、本件当時に適用される法令の規定に従っています。詐害行為取消権
債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができます(民法424条1項本文)。この債権者の権利を「詐害行為取消権」といいます。詐害行為取消権は、債務者の責任財産を保全するために、一般財産を減少させる債務者の行為の効力を否認して、債務者の一般財産から逸出したものを取り戻すことを目的とします。詐害行為取消の効果
民法425条は、詐害行為取消の効果は、総債権者の利益のためにその効力を生じると定めています。他方、判例上、詐害行為取消権の行使による逸出財産返還の方法として、逸出財産が金銭の場合には、取消債権者は自己に対して引き渡すよう請求することが認められていました(大審院大正10年6月18日判決等)。
そこで、取消債権者が受益者から受け取った金銭の取扱いが問題となっていました。より具体的にいえば、(1) 取消債権者が受益者から受け取った金銭を自己の債権の弁済に充てることができるのかどうか(強制執行は必要か)、(2) 弁済に充てることができる場合にはその法律構成(相殺説、一方的弁済充当説等)、(3) 他の債権者が取消の利益に与るための手続が問題となります。
本判決は、(3) の問題に関して、「(取消債権者が)分配者となって他の債権者の請求に応じ平等の割合による分配を為すべき義務を負うものと解することはできない。」と判示しました。