本判決の内容(抜粋)

最高裁昭和46年12月16日第一小法廷判決

 原判決は、つぎのとおり事実を確定している。すなわち、被上告会社は、昭和三二年四月一六日上告人との間に、期間を同年一二月末日とし、被上告会社が本件硫黄鉱区から採掘する硫黄鉱石の全量(所論は、全量ではなく、品位七〇パーセント以上のものにかぎると主張するが、その採用できないことは、すでに説示したとおりである。)を対象として、原判示硫黄鉱石売買契約(その内容は甲第三号証と同旨)を締結したが、その後、右契約期間は更新されて昭和三三年一二月末日までとなった。ところで、被上告会社は、右契約に基づいて採掘をはじめ、まず昭和三二年中に鉱石約一七〇トン(乾鉱量)を上告人に引き渡した。ついで同三三年六月鉱石一一三・九一トン(乾鉱量)を出荷し、その旨を上告人に通知したが、上告人から市況の悪化を理由に出荷中止を要請され、ここにおいて被上告会社は、上告人を翻意させるべく折衝したが成功せず、同年九月一一日頃には採掘を中止するのやむなきに至り、採掘分(乾鉱量にして一六一二・六九トン)は集積して出荷を準備したにとどまった。そして、右一一三・九一トンの鉱石は、ともかく上告人において引き取つたのであるが、その後は引取を拒絶したまま、同年一〇月二九日被上告会社に対し、前渡金の返還を要求する通知書(乙第五号証の一)を発するに至り、右鉱石売買契約の関係は、前記契約期間の満了日である昭和三三年一二月末日の経過をもつて終了するに至った、というのである。
 ところで、右事実関係によれば、前記鉱石売買契約においては、被上告会社が右契約期間を通じて採掘する鉱石の全量が売買されるべきものと定められており、被上告会社は上告人に対し右鉱石を継続的に供給すべきものなのであるから、信義則に照らして考察するときは、被上告会社は、右約旨に基づいて、その採掘した鉱石全部を順次上告人に出荷すべく、上告人はこれを引き取り、かつ、その代金を支払うべき法律関係が存在していたものと解するのが相当である。したがつて、上告人には、被上告会社が採掘し、提供した鉱石を引き取るべき義務があつたものというべきであり、上告人の前示引取の拒絶は、債務不履行の効果を生ずるものといわなければならない。

前提知識と簡単な解説

受領遅滞について

受領遅滞とは、「債務の履行につき受領その他債権者の協力を必要とする場合において、債務者が債務の本旨にしたがった履行の提供をなしたにもかかわらず、債権者がその協力をなさないために、履行遅滞の状態にあること」をいいます(於保不二雄『債権総論』)。

民法は、受領遅滞について、「債権者は、履行の提供があったときから遅滞の責任を負う」(平成29年改正前民法413条)とのみ規定していたことから、受領遅滞の法的性質、要件及び効果について、解釈の争いがありました。

この点について、債権者に一般的な受領義務を認めず、受領遅滞の法的性質は公平の観点から信義則上認められた法的責任であると解する見解(法定責任説)と、債権者に一般的な受領義務を認め、受領遅滞は債権者の債務不履行であると解する見解(債務不履行責任説)があります。債務不履行責任説によれば、債権者にその責に帰すべき受領義務違反があれば、その効果として、債務者に損害賠償請求権及び解除権が認められることとなります。

判例は、最高裁昭和40年12月3日第二小法廷判決において、「債務者の債務不履行と債権者の受領遅滞とは、その性質が異なるのであるから、一般に後者に前者と全く同一の効果を認めることは民法の予想していない」と述べ、受領遅滞を理由として契約解除が認められるかという争点について、「特段の事由の認められない本件において被上告人の受領遅滞を理由として上告人は契約を解除することができない」と判示していました。

本判決の意義

本判決は、買主の引取義務を肯定した上で、その債務不履行を理由とする損害賠償請求を認めています。もっとも、一般的に買主に取引義務を認めたものではなく、上記最高裁昭和40年12月3日第二小法廷判決にいう「特段の事由」が認められると判断したものと解されています(杉田洋一『最高裁判所判例解説』)。