本判決の内容(抜粋)

最高裁昭和55年1月24日第一小法廷判決

 債務者の行為が詐害行為として債権者による取消の対象となるためには、その行為が右債権者の債権の発生後にされたものであることを必要とするから、詐害行為と主張される不動産物権の譲渡行為が債権者の債権成立前にされたものである場合には、たといその登記が右債権成立後にされたときであっても、債権者において取消権を行使するに由はない(大審院大正六年(オ)第五三八号同年一〇月三〇日判決・民録二三輯一六二四頁参照)。けだし、物権の譲渡行為とこれについての登記とはもとより別個の行為であって、後者は単にその時からはじめて物権の移転を第三者に対抗しうる効果を生ぜしめるにすぎず、登記の時に右物権移転行為がされたこととなったり、物権移転の効果が生じたりするわけのものではないし、また、物権移転行為自体が詐害行為を構成しない以上、これについてされた登記のみを切り離して詐害行為として取り扱い、これに対する詐害行為取消権の行使を認めることも、相当とはいい難いからである(破産法七四条、会社更生法八〇条の規定は、これらの手続の特殊性にかんがみて特に設けられた規定であって、これを民法上の詐害行為取消の場合に類推することはできない。)。それ故、本件につき詐害行為の成立を否定した原審の判断は正当であって、原判決に所論の違法はない。

前提知識と簡単な解説

以下の解説において掲げる条文は、特に記載のない限り、本件当時に適用される法令の規定に従っています。

詐害行為取消権

債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができます(民法424条1項本文)。この債権者の権利を「詐害行為取消権」といいます。詐害行為取消権は、債務者の責任財産を保全するために、一般財産を減少させる債務者の行為の効力を否認して、債務者の一般財産から逸出したものを取り戻すことを目的とします。

債権者取消権の被保全権利の成立時期

まず前提として、詐害行為取消権の被保全権利となる債権は、詐害行為以前に発生したものであることを要します(大審院大正6年1月22日判決、最高裁昭和33年2月21日第二小法廷判決)。詐害行為以後に発生した債権であれば、債権者は既に減少した債務者の財産を引当てとして債権関係を発生させたといえるので、債権者の期待した担保の利益が害されることはないと考えられるからです。

本件では、不動産の譲渡行為は債権発生前にされた(したがって、譲渡行為は詐害行為取消しの対象とはならない)が、登記は債権発生後にされたという場合において、登記を詐害行為取消しの対象とすることができるかが問題となりました。
この点について、本判決は、「物権の譲渡行為とこれについての登記とはもとより別個の行為であって、後者は単にその時からはじめて物権の移転を第三者に対抗しうる効果を生ぜしめるにすぎず、登記の時に右物権移転行為がされたこととなったり、物権移転の効果が生じたりするわけのものではないし、また、物権移転行為自体が詐害行為を構成しない以上、これについてされた登記のみを切り離して詐害行為として取り扱い、これに対する詐害行為取消権の行使を認めることも、相当とはいい難い」ことを理由として、詐害行為は成立しないと判示しました。