本判決の内容(抜粋)

最高裁昭和56年12月18日第二小法廷判決
 自筆証書による遺言の作成過程における加除その他の変更についても、民法九六八条二項所定の方式を遵守すべきことは所論のとおりである。しかしながら、自筆証書中の証書の記載自体からみて明らかな誤記の訂正については、たとえ同項所定の方式の違背があっても遺言者の意思を確認するについて支障がないものであるから、右の方式違背は、遺言の効力に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である(最高裁昭和四六年(オ)第六七八号同四七年三月一七日第二小法廷判決・民集二六巻二号二四九頁参照)。しかるところ、原審の適法に確定した事実関係によれば、本件においては、遺言者が書損じた文字を抹消したうえ、これと同一又は同じ趣旨の文字を改めて記載したものであることが、証書の記載自体からみて明らかであるから、かかる明らかな誤記の訂正について民法九六八条二項所定の方式の違背があるからといって、本件自筆証書遺言が無効となるものではないといわなければならない。結論において同趣旨に帰着する原判決は、結局正当として肯認することができ、論旨は採用することができない。

前提知識と簡単な解説

遺言の方式について

遺言者の真意を確保するため、遺言は、民法が定める厳格な方式に従うことを要します(民法960条)。

遺言は、特別な方式によることを許す場合を除いては(民法967条ただし書)、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければなりません(民法967条本文)。

自筆証書遺言の方式と加除変更の方式

自筆証書遺言は、遺言者がその全文、日付及び氏名を自書し、これに押印しなければなりません(民法968条1項)。
自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押すことが必要とされています(民法968条2項(平成30年改正後の民法968条3項))。

本判決の意義

本判決が引用する最高裁昭和47年3月17日は、危急時遺言(民法976条)において、「遺産します」とあるのを「遺言します」と一字訂正した場合について、「たんに明らかな誤記を訂正したにとどまり」「このような加筆訂正の結果について改めて遺言者に読み聞かせることがなく、また附加訂正の方式において欠けるところがあったとしても、本件遺言の効力に影響を及ぼすものではない」と判示していました。
本判決は、上記判例を踏まえ、自筆証書遺言に関しても、「自筆証書中の証書の記載自体からみて明らかな誤記の訂正については、たとえ同項所定の方式の違背があっても」「方式違背は、遺言の効力に影響を及ぼすものではない」と判示したものと考えられます。