民法第518条
  1. 債権者(債権者の交替による更改にあっては、更改前の債権者)は、更改前の債務の目的の限度において、その債務の担保として設定された質権又は抵当権を更改後の債務に移すことができる。ただし、第三者がこれを設定した場合には、その承諾を得なければならない。
  2. 前項の質権又は抵当権の移転は、あらかじめ又は同時に更改の相手方(債権者の交替による更改にあっては、債務者)に対してする意思表示によってしなければならない。
平成29年改正前民法第518条
更改の当事者は、更改前の債務の目的の限度において、その債務の担保として設定された質権又は抵当権を更改後の債務に移すことができる。ただし、第三者がこれを設定した場合には、その承諾を得なければならない。

条文の趣旨と解説

更改によって旧債務は消滅することから、旧債務について存在した担保権等の従たる権利関係もすべて消滅するのが原則です。しかし、新債務のために新たに質権又は抵当権を設定するときは、旧債務における順位を喪失してしまうことから、民法は、その順位を維持したまま質権又は抵当権を新債務に移すことを認めています。

なお、元本確定前の根抵当権については、本条に基づいて新債務に移転させることはできません(398条の7第4項)。

質権又は抵当権を移転させる債権者の意思表示

平成29年改正前民法は、質権又は抵当権を更改後の債務に移すために、更改の当事者の合意を要件としていました。しかし、質権又は抵当権の移転に、担保設定者ではない債務者の関与を必要とすることについては,合理的な理由がないという指摘がされていました(『民法(債権関係)の改正に関する中間試案の補足説明』)。

そこで、改正民法は、質権又は抵当権の移転について、債権者の単独の意思表示によってすることができると定めています(本条1項本文)。ただし、第三者の質権又は抵当権を設定した場合には、その承諾を得ることを要します(本条1項本文)。

質権又は抵当権を移転させる意思表示の時期

質権又は抵当権の移転に関する意思表示については、更改契約の後でもよいとすると、被担保債権の消滅後に質権等が移転することを認めることになり、担保権の附従性との関係で問題が生じます(『民法(債権関係)の改正に関する中間試案の補足説明』、部会資料69A)。
そこで、遅くとも更改契約の時点までに質権又は抵当権の移転の意思表示をすることが必要とされています(本条2項)。

条文の位置付け