民法第350条
第296条から第300条まで及び第304条の規定は、質権について準用する。

条文の趣旨と解説

留置権及び先取特権の規定の一部を、質権について準用しています。

1. 不可分性
被担保債権の全部の弁済を受けるまでは、質物の全部について質権の効力が及びます(本条において準用する296条)。

2. 果実の収取
質権者は、質物から生じる果実を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができます(本条において準用する297条1項)。この場合、まず債権の利息に充当し、残余があるときに元本に充当します(本条において準用する297条2項)。
なお、不動産質権については、質権者が使用収益権を有することから(356条)、目的物の果実は質権者に帰属するものといえ、297条の準用はないと解されています(直井義典『新注釈民法(6)物権(3)』)。

3. 目的物の保管等
質権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければなりません(本条において準用する298条1項)。質権者は、質権設定者の承諾を得なければ、使用し、賃貸し、又は担保に供することができません(本条において準用する298条2項)。質権者が違反した場合には、債務者又は所有者は、質権の消滅を請求することができます(本条において準用する298条3項。所有者も消滅請求権を行使しうることについて、最高裁昭和40年7月15日第一小法廷判決があります。)。
ただし、不動産質権については、目的物の使用収益権が認められていることから(356条)、質権設定者の承諾なく、目的物を使用し、他人に賃貸することができます。

4. 費用の償還請求
質権者が、質物について必要費を支出したときは、所有者にその償還をさせることができます(本条において準用する299条1項)。有益費を支出したときは、これによる価格の増加が現存する場合にかぎり、所有者の選択に従い、その支出した金額又は増加額を償還させることができます(本条において準用する299条2項本文)。
ただし、不動産質権については、管理の費用その他不動産に関する負担は、質権者が負担します(357条)。

5. 被担保債権の消滅時効
質権者が目的物を占有していても、被担保債権の消滅時効の進行は妨げられません(本条において準用する300条)。

6.物上代位
質権についても物上代位権が認められています(本条において準用する304条)。

条文の位置付け