相続財産中に可分債権がある場合について、「その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継する」と判示しました。

事案の概要

  • 訴外Aは、昭和18年11月13日、自身が所有する山林地上の立木のうち、松及び栂250本を、伐採期間を同日から2年間と定めて、訴外Bに対して売却した。
  • Bは、当該立木のうち75本を伐採し、残り175本の立木を伐採することができる権利を、訴外Cに譲渡した。
  • Cは、さらにこの権利を、Yに譲渡した。
  • Aは、BC間の譲渡及びCY間の各譲渡を承認した。
  • Yは、175本のほかに伐採できないことを知りながら、雇用した訴外Dに命じて、昭和23年3月頃までに、立木45本を超過伐採し搬出した。
  • 昭和25年3月12日、Aは死亡し、妻及び子であるXらがその遺産を相続した。

判決文(抜粋)

最高裁昭和29年4月8日第一小法廷判決
 相続人数人ある場合において、その相続財産中に金銭その他の可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解するを相当とするから、所論は採用できない。

前提知識と簡単な解説

相続の効力

相続は、被相続人の死亡によって開始し(民法882条)、相続人は、相続開始の時から、被相続人の一身に専属したものを除き(民法896条ただし書)、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条本文)。
相続人が数人あるときは、相続財産は、共同相続人の共有に属し(民法898条1項)、各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します(民法899条)。

多数当事者の債権及び債務

多数当事者の債権及び債務については、民法は、原則として、各債権者又は各債務者が、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負うものとされています(民法427条)。

本判決の位置付け

本判決の前にも、大審院大正9年12月22日判決が、保険金請求権を共同相続したという事案において、「遺産相続人数人アル場合ニ於テ其相続財産中ニ金銭債権存スルトキハ其債権ハ法律上当然分割セラレ各遺産相続人カ平等ノ割合ニ応シテ権利ヲ有スルコト民法第四百二十七条ノ法意ニ徴シ洵ニ明白ナリ」と判示していました。
しかし、上記大審院判例にかかわらず、本判決がされた当時、学説からは、債権は当然には分割されず、全共同相続人が共同しなければ処分することができない、とする説も有力に主張されていました(我妻栄『親族・相続法解説改正版』)。また、共同相続財産の本質を合有であると理解する学説(最高裁昭和30年5月31日第三小法廷判決の解説を参照)からも、「合有の原則により、給付が可分であると否とに拘わらず、各相続人は各自の有する不可分債権を自由に第三者に譲渡其他の処分を為すことが出来ないし、又各自単独に其の債権を行使して、自今ために弁済を受けることは出来ない」との主張がされていました(石田文治郎『民法研究第1巻』)。
したがって、本判決は、上記のような学説の批判があるなかで、最高裁として、大審院判例を踏襲することを明らかにしたものと考えられます。