使用貸借の貸主が数名ある場合において、使用貸借が終了したことを原因として、その一部の者のみが当事者となって目的物の明渡を請求することができるかという問題について、「本件家屋の明渡を求める権利は債権的請求権であるが、性質上の不可分給付と見るべきものであるから、各明渡請求権者は、総明渡請求権者のため本件家屋全部の明渡を請求することができる」と判示しました。

事案の概要

  • 昭和20年12月17日頃、訴外Aは、自身が所有権を取得した本件家屋を、訴外Bに対し、本件家屋において特殊飲食店を経営させる目的で、返還の期限を定めず無償で貸与した。
  • Aは昭和22年5月12日死亡し、その子であるX1、訴外C及び同Dの3名が相続した。その後、X1、Cの親権者及びDの親権者並びにAの内妻であったX2が協議し、本件家屋について、X1、X2、C及びDの4名の持分相等しき共有とする旨の合意が成立した。
  • 昭和33年11月18日、本件家屋の使用貸借は、使用目的終了を理由とする契約解除の意思表示により適法に解除された。
  • Bは昭和39年6月8日死亡し、上告人Yらがその相続人として権利義務を承継した。
  • X1及びX2は、Yらに対し、本件家屋につき各4分の1の共有権を有することの確認と本件家屋の明渡等を請求した。
  • 判決文(抜粋)

    最高裁昭和42年8月25日第二小法廷判決
     被上告人らの上告人らに対する本件家屋の明渡請求は使用貸借契約の終了を原因とするものであることは原判文上明らかであるから、本件家屋の明渡を求める権利は債権的請求権であるが、性質上の不可分給付と見るべきものであるから、各明渡請求権者は、総明渡請求権者のため本件家屋全部の明渡を請求することができると解すべきである。被上告人らに対し本件家屋全部の明渡を命じた原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。

    前提知識と簡単な解説

    多数当事者の債権及び債務

    数人で所有権以外の財産権を有する場合については、法令に特別の定めがあるときを除き、準共有として、共有に関する規定が準用されます(民法264条)。しかし、債権及び債務については、多数当事者の債権及び債務に関する民法427条以下の規定が、民法264条にいう「特別の定め」に当たると解されています。
    多数当事者の債権及び債務については、民法は、原則として、各債権者又は各債務者が、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負うものとされています(民法427条)。この例外として、債権の目的がその性質上又は当事者の意思表示によって不可分である場合において、数人の債権者があるときは、不可分債権として、各債権者はすべての債権者のために履行を請求し、債務者は、すべての債権者のために各債権者に対して履行をすることができるとされています(民法428条。追記:平成29年民法(債権関係)改正の影響があります。)。

    問題の所在

    共有者の所有権(共有権)に基づく共有物引渡請求権については、大審院判例は、不可分債権に準じて、各共有者が総共有者のために単独で共有物の引渡しをすることが認められるとしていました(大審院大正10年3月18日判決)。
    本件では、使用貸借契約の終了を原因とする家屋明渡請求であり、債権に基づく請求であることから、分割が原則であり(民法427条)、上記の物権的請求権に基づく場合と異なるのではないかが問題とはなります。
    この点について、本判決は、「本件家屋の明渡を求める権利は債権的請求権であるが、性質上の不可分給付と見るべきものである」として、各貸主が総貸主のため家屋全部の明渡を請求できると判示しました。