本判決の内容(抜粋)
- 最高裁昭和43年5月31日第二小法廷判決
- 遺言の執行について遺言執行者が指定されまたは選任された場合においては、遺言執行者が相続財産の、または遺言が特定財産に関するときはその特定財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有し、相続人は相続財産ないしは右特定財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることはできないこととなるのであるから(民法一〇一二条ないし一〇一四条)、本訴のように、特定不動産の遺贈を受けた者がその遺言の執行として目的不動産の所有権移転登記を求める訴において、被告としての適格を有する者は遺言執行者にかぎられるのであって、相続人はその適格を有しないものと解するのが相当である(大審院昭和一四年(オ)第一〇九三号、同一五年二月一三日判決、大審院判決全集七輯一六号四頁参照)。
前提知識と簡単な解説
遺贈について
遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができます(民法964条)。特定名義の遺贈は、遺産中の指定された特定の財産を目的とするものであり、「特定遺贈」といいます。
遺言は遺言者の死亡の時からその効力を生じ(民法985条1項)、特定遺贈の目的たる財産は物権的効力を生じ直接に受遺者に移転すると解されています(大審院大正5年11月8日判決)。しかし、不動産の遺贈については、登記をもって物権変動の対抗要件(民法177条)とすると解されていることから(最高裁昭和39年3月6日第二小法廷判決)、遺言執行者は、遺言の執行として、対抗要件を具備させる手続を行うこととなります。
遺言執行者の権利義務
遺言執行者がある場合、遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有し(民法1012条1項)、一方で、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができません(民法1013条1項)。
本判決の意義
本判決は、「特定不動産の遺贈を受けた者がその遺言の執行として目的不動産の所有権移転登記を求める訴において、被告としての適格を有する者は遺言執行者にかぎられるのであって、相続人はその適格を有しない」と判示しました。
本判決が引用する大審院昭和15年2月13日判決においても、遺言執行者ある場合においては、遺言の執行を求める訴えは遺言執行者のみを被告として提起することができ、相続人を共同被告とすべきものではない、との解釈が示されており、本判決は、かかる解釈を確認した意味を有すると考えられています(吉井直昭『最高裁判所判例解説民事篇昭和43年度』)。