本判決の内容(抜粋)

最高裁昭和29年9月24日第二小法廷判決

建物の賃借人が、その賃借権を保全するため賃貸人たる建物所有者に代位して建物の不法占拠者に対しその明渡を請求する場合においては、直接自己に対してその明渡をなすべきことを請求することができるものと解するのを相当とする(大審院昭和七年六月二一日言渡判決、民集一一巻一一九八頁、同昭和一〇年三月一二日言渡判決、集一四巻四八二頁各参照)。

前提知識と簡単な解説

以下の解説において掲げる条文は、特に記載のない限り、本件当時に適用される法令を前提としています。

賃貸借について

賃貸借は、当事者の一方が相手方に目的物の使用及び収益をさせることを約し、相手方がこれに対して賃料を支払うことを約することによって成立します(民法601条)。
賃借権は債権であることから、賃借人は賃貸人に対してのみ一定の請求をすることができるのが原則ですが、不動産の賃借人の保護を図るため、不動産の賃貸借を登記した場合には第三者に対抗することもできるとされています(民法605条)。また、特別により、建物所有を目的とする土地の賃貸借については、その登記がなくても、土地の上に賃借人が登記されている建物を所有するときは対抗力が認められ(建物保護ニ関スル法律1条)、建物の賃貸借については、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは対抗力が認められています(借家法1条1項)。

そして、賃借権が対抗力を有する場合には、賃借人は、自身の賃借権に基づき、不法占有者に対する妨害排除請求をすることができると解されています(最高裁昭和30年4月5日第三小法廷判決。なお、平成29年民法(債権関係)改正により、不動産賃借権に基づく妨害排除請求権及び返還請求権が明文化されました(改正民法605条の4)。)。

債権者代位権

債権者代位権は、債務者が一般財産の減少を放置する場合に、債権者が代わってその減少を防止する措置を講じる制度であり、債権者は自己の債権を保全するために債務者に属する権利を行使することができます(民法423条1項本文)。

特定債権保全のための債権者代位権の行使

債権者代位権は、本来は債務者がその一般財産の減少するのを放置する場合に債権者が債務者に代わって減少するのを防止するという責任財産保全のための制度ですが、判例は、特定債権を保全するため、不動産登記請求権を被保全債権とする不動産登記請求権の代位行使を認めていました(大審院明治43年7月6日第二民事部判決。なお、平成29年民法(債権関係)改正により、登記請求権を保存するための債権者代位権が明文化されました(改正民法423条の7))。
この場合には、債務者の無資力を要件としないで債権者代位権の行使が認められます。

賃借人による建物明渡請求権の代位行使

大審院判例は、賃借人は、債務者の無資力を要件とせずに、賃貸人に代位して賃貸人の有する明渡請求権を行使することができるとし(大審院昭和4年12月16日判決)、また、明渡請求権の行使の方法として、自己に対して土地明渡しの給付行為をすべき旨を請求することができるとしていました(大審院昭和7年6月21日判決)。
本判決は、最高裁として、このような大審院判例の立場を踏襲することを明らかにしたものです。