民法第605条
不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。
平成29年改正前民法第605条
不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その後その不動産について物権を取得した者に対しても、その効力を生ずる。

条文の趣旨と解説

賃貸借は、賃貸人が賃借人に物の使用収益をさせるという債権関係であり、賃借人は賃貸人以外の者に対しては賃借権を主張し得ないのが原則です。しかし、居住や営業などの生活基盤が他人の物の上に築き上げられるにもかかわらず、賃借権が脆弱なままでは、賃借人の社会生活の安定や向上が害されます。民法は、賃借人の地位強化という観点から、不動産賃貸借は、登記をすれば、対抗力を有するものとされました(本条)。
もっとも、賃借権登記には賃貸人の協力を要するところ、特約がない限り、賃借人は賃貸人に対して賃借権の登記請求権を有しないとされているため(大審院大正10年7月11日判決)、実際に不動産賃貸借がされる例は稀であるといえます。
そこで、賃借人の保護を図るため、借地借家法によって、借地人所有の建物の登記を要件として土地賃借権の対抗力を(借地借家法10条1項)、建物の引渡を要件として建物賃借件の対抗力が(同法31条)認められています。

平成29年民法(債権関係)改正について

改正前605条は「物権を取得した者」とのみ規定していましたが、二重に賃借をした者、不動産を差し押さえた者等が含まれることを明確にするため、「その他の第三者」という文言が付加されました。

改正前605条は「その後その不動産について物権を取得した者」と規定していましたが、賃貸借の登記をする前に現れた第三者との優劣も対抗要件の具備の先後によって決まるため、「その後」という文言が削除されました。

改正前605条は「その効力を生ずる」と規定していましたが、(ア)第三者に対する賃借権の対抗の問題と(イ)第三者への賃貸人たる地位の移転の問題とを区別し、(ア)を本条で規律することとし、(イ)については605条の2で規律することとされました。

条文の位置付け