民法第611条
  1. 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
  2. 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。
平成29年改正前民法第611条
  1. 賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる。
  2. 前項の場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。

条文の趣旨と解説

平成29年民法(債権関係)改正について

滅失以外の事由によって使用及び収益ができなくなった場合

改正前611条は、「滅失したとき」に賃料の減額請求(1項)又は解除(2項)をすることができると規定していましたが、滅失の場合に限らず、滅失以外の事由によって使用及び収益ができなくなった場合一般においても、本条の対象として賃料の減額又は解除を認めることとされました

賃料の当然減額(1項)

改正前611条は、賃借人が「減額の請求」をして、はじめて賃料が減額されるものと規定していました。
しかし、賃料は、賃借物が賃借人の使用及び収益可能な状態に置かれたことの対価として日々発生するものであり、賃借物の一部について使用及び収益をすることができなくなった場合には、対価としての賃料も当然にその割合に応じて発生しないとも考えられます。そこで、賃料は請求を待たずに当然に減額されると規定されました
もっとも、改正前の解釈でも、賃料減額請求権が行使されると一部滅失の当時に遡ってその効力を生じると解されていたことから、賃料減額請求がされた場合に関しては、改正の前後で大きな違いはないと考えられます(『一問一答民法(債権関係)改正』)。

賃借人の過失による一部滅失等の場合の解除(2項)

改正前611条2項は、賃借物の一部が賃借人の過失によって滅失した場合には、賃貸借契約の目的が達せられない場合であっても、賃借人からの契約の解除はできないとされていました。
しかし、賃借人が賃借をした目的を達することができないにもかかわらず、契約を存続させることは合理的ではないことから、賃借人の過失によるものかどうかを問わず、賃借人による解除を認めることとされました

条文の位置付け