民法第606条
  1. 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責に帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
  2. 賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。
平成29年改正前民法第606条
  1. 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。
  2. 賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。

条文の趣旨と解説

賃貸人の中心的な債務は、賃借人に目的物を使用収益させるという債務であり、そのために必要な修繕をする義務を負います(本条1項本文)。一方で、賃貸人の修繕は、所有者としての賃貸人の権利でもあることから、賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができません(本条2項)。

平成29年民法(債権関係)改正について

改正により、本条1項にただし書が追加され、賃借人に帰責事由がある場合には賃貸人が修繕義務を負わない旨が新たに定められました。
従来は、賃借人の責に帰すべき事由によって破損が生じた場合における賃貸人の修繕義務の有無については、見解が分かれており、かつての通説的見解は、「やはり修繕義務を生じ、賃貸人は別に賃借人の保管義務違反を理由として損害賠償を請求することができる」と解していました(我妻栄『債権各論中巻一』)
しかし、公平の観点から賃貸人に修繕義務を負わせるべきではないこと、賃借人の帰責事由により賃借物の一部の使用収益が不可能となった場合には賃料の減額がされない規律(611条第1項)や賃借人の帰責事由によらない賃借物の損傷は賃借人の原状回復義務の対象とならない規律(621条)と平仄を合わせる必要があることから、賃借人に帰責事由がある場合には賃貸人は修繕義務を負わないものとされました(法制審議会民法(債権関係)部会「部会資料69A」)。

条文の位置付け