事案の概要
上告人Xは、昭和31年7月2日、Dからその住宅内に存在する畳建具を買い受け、代金15万円をDに支払いました。被上告人Yは、DのXに対する債務につき保証しました。しかし、XD間の売買契約は、Dの債務不履行を理由に解除されました。本判決の内容(抜粋)
- 最高裁昭和40年6月30日大法廷判決
売買契約の解除のように遡及効を生ずる場合には、その契約の解除による原状回復義務は本来の債務が契約解除によって消滅した結果生ずる別個独立の債務であって、本来の債務に従たるものでもないから、右契約当事者のための保証人は、特約のないかぎり、これが履行の責に任ずべきではないとする判例(大審院大正六年(オ)第七八九号、同年一〇月二七日判決、民録二三輯一八六七頁、なお、同明治三六年(オ)第一七〇号、同年四月二三日判決、民録九輯四八四頁等参照)があることは、原判決の引用する第一審判決の示すとおりである。しかしながら、特定物の売買における売主のための保証においては、通常、その契約から直接に生ずる売主の債務につき保証人が自ら履行の責に任ずるというよりも、むしろ、売主の債務不履行に基因して売主が買主に対し負担することあるべき債務につき責に任ずる趣旨でなされるものと解するのが相当であるから、保証人は、債務不履行により売主が買主に対し負担する損害賠償義務についてはもちろん、特に反対の意思表示のないかぎり、売主の債務不履行により契約が解除された場合における原状回復義務についても保証の責に任ずるものと認めるのを相当とする。したがって、前示判例は、右の趣旨においてこれを変更すべきものと認める。
前提知識と簡単な解説
保証債務の範囲
保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負います(民法446条)。保証債務の範囲については、特約がない場合、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのものが含まれることとなります(民法447条1項)。解除権行使の効果
当事者の一方が解除権を行使したときは、書く当事者はその相手方を原状に復させる義務(原状回復義務)を負います(民法545条1項本文)。この解除の効果の法律構成については争いがあり、(i) 解除により契約が遡及的に消滅し、未履行債務は当然に消滅し、既履行債務は受領者が不当利得返還義務を負うという「直接効果説」、(ii) 解除の効力は将来に向かって債権債務を消滅させ、未履行債務は当然に消滅するが、既履行給付については解除時から返還債務が生じるとする「折衷説」などがあります。
原状回復義務と保証人の責任
解除の効果に関する直接効果説によれば、解除による原状回復義務の性質は不当利得返還義務であり、本来の債務とは別個独立の法律上の債務であることから、主たる債務に従たる債務(民法447条1項)とはいえないこととなります。そこで、従来の判例は、特約がない限り、保証人は原状回復義務を履行する責任を負わないと解していました(大審院大正6年10月27日判決)。しかし、本判決は、保証契約における当事者の意思解釈について、「特定物の売買における売主のための保証においては、通常、その契約から直接に生ずる売主の債務につき保証人が自ら履行の責に任ずるというよりも、むしろ、売主の債務不履行に基因して売主が買主に対し負担することあるべき債務につき責に任ずる趣旨でなされるものと解するのが相当である」と述べ、従来の判例を変更し、「保証人は、債務不履行により売主が買主に対し負担する損害賠償義務についてはもちろん、特に反対の意思表示のないかぎり、売主の債務不履行により契約が解除された場合における原状回復義務についても保証の責に任ずるものと認めるのを相当とする」と判示しました。