本判決の内容(抜粋)

最高裁昭和41年5月27日第二小法廷判決

 債務者が既存の抵当権付債務の弁済をするために、右被担保債権額以下の実価を有する抵当物件たる所有不動産を相当な価格で売却し、その代金を右債務の支払に充てて当該抵当権の消滅をはかる場合にあっては、その結果右債務者の無資力を招いたとしても、右不動産売却行為は、一般債権者の共同担保を減少することにはならないから、民法四二四条所定の詐害行為にあたらないと解するのを相当とする。

前提知識と簡単な解説

以下の解説は、特に記載のない限り、本件当時に適用される法令の規定に従っています。

詐害行為取消権

債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができます(民法424条1項本文)。この債権者の権利を「詐害行為取消権」といいます。詐害行為取消権は、債務者の責任財産を保全するために、一般財産を減少させる債務者の行為の効力を否認して、債務者の一般財産から逸出したものを取り戻すことを目的とします。

相当の対価を得てした財産処分行為の詐害行為該当性

学説の多くは、相当の対価をもって不動産その他の財産を換価することは、原則として詐害行為とならないと解していました(勝本正晃『債権総論中巻之三』)。
これに対して、大審院判例は、消費しやすい金銭に換えることとは担保価値の減少を招くことから、相当な対価を得たかどうかを問わず、原則として詐害行為となりうるが(大審院明治39年2月5日判決)、例外として、債務者が、履行期限の到来した債務を弁済し、又は公租公課の支出をするなどの有用の資に充てるために相当の対価をもって不動産を売却し、売却代金を有用の資に充てた場合には、詐害行為として取り消すことはできないとしていました(大審院明治44年10月3日判決、大審院大正6年6月7日判決)。
本判決も、上記大審院判例の立場を踏襲し、「債務者が既存の抵当権付債務の弁済をするために、右被担保債権額以下の実価を有する抵当物件たる所有不動産を相当な価格で売却し、その代金を右債務の支払に充てて当該抵当権の消滅をはかる場合」には、「詐害行為にあたらない」としました。

平成29年民法(債権関係)改正について

平成29年民法(債権関係)改正により、相当の対価を得てした財産の処分行為について、原則として詐害行為取消請求をすることはできず、例外的に、(1)その行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、債務者において隠匿等の処分をするおそれを現に生じさせるものであること、(2) 債務者が、その行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと、(3) 受益者が、その行為の当時、債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと、これらの要件のいずれにも該当する場合に限り、詐害行為取消請求をすることができるものとされました(改正民法424条の2)。