事案の概要
被上告人Xに対する債務者D株式会社の貸金債務について、上告人Yらの先代Eは、昭和29年8月31日、Xとの間で、重畳的債務引受の合意をしました。Yらは、Dの貸金債務は、弁済期の翌日である昭和27年1月1日より起算して5年の時効完成により昭和31年12月31日の経過とともに消滅したと主張しました。本判決の内容(抜粋)
- 最高裁昭和41年12月20日第三小法廷判決
重畳的債務引受がなされた場合には、反対に解すべき特段の事情のないかぎり、原債務者と引受人との関係について連帯債務関係が生ずるものと解するのを相当とする。本件について、原判決が右債務引受の経緯として認定判示するところによれば、上告人ら先代Eは本件貸金債務の原債務者D物産株式会社の解散後、同会社の清算人からその清算事務の一環として同会社所有不動産等を売却処分する権限を与えられてその衝に当っていたところ、その頃被上告人の代理人芦苅直已は右会社の清算人に対し本件貸金の履行を求めていたが、その債務存在の承認さえ得られなかったので、右会社の前社長であり事実上清算事務の一部を担当していた右Eに対しその責を負うべきことを要求した結果、Eにおいて個人として右会社の債務につき重畳的債務引受をすることになったというのであるから、これによって連帯債務関係が生じない特段の事情があるとは解されず、したがって、右原債務者の債務の時効消滅の効果は、民法四三九条の適用上、右原債務者の負担部分について債務引受人にも及ぶものと解するのを相当とする。
前提知識と簡単な解説
以下の解説は、特に記載のない限り、本件当時に適用される法令の規定に従っています。併存的債務引受
従来の債務者の債務を免れさせることなく、引受人がこれと並んで新たに同一内容の債務を負担することを「併存的債務引受」(「重畳的債務引受」)といいます。併存的債務引受は、債務者の同意を必要とせず、また債務者の意思に反してもすることができると解されています(大審院大正15年3月25日判決)。
併存的債務引受の効果
大審院は、原債務者と引受人との関係について、連帯債務関係となると解していましたが(大審院昭和11年4月15日判決)、学説上は、引受人が原債務者の委託を受けずに併存的債務引受をした場合などには、共同意識が原債務者にはないことから、不真正連帯債務となるという見解や、不可分債務となるという見解などがありました(学説の状況については、椿寿夫『注釈民法(11)』を参照)。この点について、本判決は、併存的債務引受がされた場合には、「反対に解すべき特段の事情のないかぎり、原債務者と引受人との関係について連帯債務関係が生ずるものと解するのを相当とする」と判示しました。
連帯債務者の一人について生じた事由について
連帯債務者の一人について生じた事由は、原則として他の連帯債務者に対して効力を生じることはありませんが(民法440条)、時効の完成など(民法439条)、一定の事由については、他の連帯債務者にも効力が及ぶものとされています。平成29年民法(債権関係)改正について
平成29年民法改正により、債務の引受けに関する規定が新設されました(改正民法第3編第1章第5節)。改正民法によれば、併存的債務引受の引受人は、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担します(改正民法470条1項)。また、連帯債務の絶対的効力事由が改められ、時効の完成は、相対的効力事由へと変更されました(改正民法441条の解説を参照。)。