本判決の内容(抜粋)

最高裁昭和44年12月19日第二小法廷判決

 右事実関係に徴すれば、本件建物その他の資産を被上告会社に対して譲渡担保に供した行為は、被上告会社に対する牛乳類の買掛代金二四四万円の支払遅滞を生じた訴外有限会社D乳業食品およびその代表取締役Eが、被上告会社からの取引の打切りや、本件建物の上の根抵当権の実行ないし代物弁済予約の完結を免れて、従前どおり牛乳類の供給を受け、その小売営業を継続して更生の道を見出すために、示談の結果、支払の猶予を得た既存の債務および将来の取引によって生ずべき債務の担保手段として、やむなくしたところであり、当時の諸般の事情のもとにおいては、前記の目的のための担保提供行為として合理的な限度を超えたものでもなく、かつ、かかる担保提供行為をしてでも被上告会社との間の取引の打切りを避け営業の継続をはかること以外には、右訴外会社の更生策として適切な方策は存しなかったものであるとするに難くない。債務者の右のような行為は、それによって債権者の一般担保を減少せしめる結果を生ずるにしても、詐害行為にはあたらないとして、これに対する他の債権者からの介入は許されないものと解するのが相当であり、これと同旨の見解に立って本件につき詐害行為の成立を否定した原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、原審の認定しない事実関係および叙上と異なる見解を前提として原判決の違法をいうものであり、採用することができない。

前提知識と簡単な解説

以下の解説は、特に記載のない限り、本件当時に適用される法令の規定に従っています。

詐害行為取消権

債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができます(民法424条1項本文)。この債権者の権利を「詐害行為取消権」といいます。詐害行為取消権は、債務者の責任財産を保全するために、一般財産を減少させる債務者の行為の効力を否認して、債務者の一般財産から逸出したものを取り戻すことを目的とします。

既存の債務についての担保の供与行為の詐害行為該当性

判例は、一部の債権者のために抵当権等を設定する行為について、他の債権者の共同担保が減少することを根拠として、詐害行為に該当するとしていました(大審院大正8年5月5日判決、最高裁昭和32年11月1日第二小法廷判決等)。

本判決も、譲渡担保に供した行為は、詐害行為に該当しうることを前提としています。ただ、本件の事情の下では、譲渡担保に供した行為は「小売営業を継続して更生の道を見出すために、示談の結果、支払の猶予を得た既存の債務および将来の取引によって生ずべき債務の担保手段として、やむなくした」ものであり、「担保提供行為として合理的な限度を超えたものでもなく、かつ、かかる担保提供行為をしてでも被上告会社との間の取引の打切りを避け営業の継続をはかること以外には、右訴外会社の更生策として適切な方策は存しなかった」ことから、「詐害行為にはあたらないとして、これに対する他の債権者からの介入は許されないものと解するのが相当」と判断しました。

平成29年民法(債権関係)改正について

平成29年民法(債権関係)改正により、債務者がした既存の債務についての担保の供与については、原則として詐害行為に該当せず、例外的に、(1) その行為が、債務者が支払不能の時に行われたものであり、かつ、(2) その行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものである場合には、詐害行為取消請求をすることができるものとされています(改正民法424条の3第1項)。なお、担保の供与行為が、債務者の義務に属せず、又はその時期が債務者の義務に属しないものである場合には、上記(1)の要件が緩和され、(1)’ その行為が、債務者の支払不能になる前30日以内に行われたものであり、かつ、(2) その行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものである場合に、詐害行為取消請求をすることができるものとされています(改正民法424条の3第2項)。