本判決の内容(抜粋)

最高裁昭和46年11月19日第二小法廷判決

 所論は、そのいわゆる配当要求は、強制執行法上の配当要求ではなく、受益の意思表示であるというのであるが、実定法上、かかる意思表示の効力を認むべき根拠は存在しない。本来、債権者取消権は、債務者の一般財産を保全するため、とくに取消債権者において、債務者受益者間の詐害行為を取り消したうえ、債務者の一般財産から逸出したものを、総債権者のために、受益者または転得者から取り戻すことができるものとした制度である。もし、本件のような弁済行為についての詐害行為取消訴訟において、受益者である被告が、自己の債務者に対する債権をもって、上告人のいわゆる配当要求をなし、取消にかかる弁済額のうち、右債権に対する按分額の支払を拒むことができるとするときは、いちはやく自己の債権につき弁済を受けた受益者を保護し、総債権者の利益を無視するに帰するわけであるから、右制度の趣旨に反することになるものといわなければならない。
 ところで、取消債権者が受益者または転得者に対し、取消にかかる弁済額を自己に引き渡すべきことを請求することを許すのは、債務者から逸出した財産の取戻しを実効あらしめるためにやむをえないことなのである。その場合、ひとたび取消債権者に引き渡された金員が、取消債権者のみならず他の債権者の債権の弁済にも充てられるための手続をいかに定めるか等について、立法上考慮の余地はあるとしても、そのことからただちに、上告人のいわゆる配当要求の意思表示に、所論のような効力を認めなければならない理由はないというべきである。

前提知識と簡単な解説

以下の解説は、特に記載のない限り、本件当時に適用される法令の規定に従っています。

詐害行為取消権

債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができます(民法424条1項本文)。この債権者の権利を「詐害行為取消権」といいます。詐害行為取消権は、債務者の責任財産を保全するために、一般財産を減少させる債務者の行為の効力を否認して、債務者の一般財産から逸出したものを取り戻すことを目的とします。

逸出財産返還の方法

判例上、詐害行為取消権の行使による逸出財産返還の方法として、逸出財産が金銭の場合には、取消債権者は自己に対して引き渡すよう請求することが認められていました(大審院大正10年6月18日判決等)。そして、取消債権者は受け取った金銭を債務者に引き渡すべき義務と自己の有する債権とを相殺することにより自己の債権の満足を受けることができるなどと解されていたため、取消債権者が優先弁済を受けたのと同様の結果になってしまうことが問題視されていました。
このように取消債権者が優先弁済を受けてしまうことを回避する方策として、本件の前には、取消債権者が金銭を他の債権者に分配する義務を負うのではないかが争われた事案がありましたが、最高裁は、「取消債権者は自己に引渡を受けた右取戻物を債務者の一般財産に回復されたものとして取扱うべきであることは当然であるが、それ以上に、自己が分配者となって他の債権者の請求に応じ平等の割合による分配を為すべき義務を負うものと解することはできない。」と判示していました(最高裁昭和37年10月9日第三小法廷判決)。

そこで、本件では、上記問題を回避する法律構成として、受益者は、取消債権者に対して「配当要求の意思表示」をすることによって、取消により取消債権者が受け取るべき金員は、受益者と取消債権者とが債権額に応じ按分して取得すべきものとなり、それゆえ受益者は取消債権者に対して按分額の支払いを拒むことができるという主張をしました。
これに対して、本判決は、この主張を採用しませんでした。その実質的な理由として、「もし、本件のような弁済行為についての詐害行為取消訴訟において、受益者である被告が、自己の債務者に対する債権をもって、上告人のいわゆる配当要求をなし、取消にかかる弁済額のうち、右債権に対する按分額の支払を拒むことができるとするときは、いちはやく自己の債権につき弁済を受けた受益者を保護し、総債権者の利益を無視するに帰するわけであるから、右制度の趣旨に反することになるものといわなければならない。」と判示しています。