本判決の内容(抜粋)
- 最高裁昭和50年12月1日第二小法廷判決
不動産の譲渡が詐害行為として取消を免れず受益者において現物返還に代る価格賠償をすべきときの価格の算定は、特別の事情がないかぎり、当該詐害行為取消訴訟の事実審口頭弁論終結時を基準としてなすべきものと解するのが相当である。けだし、右価格賠償における価格の算定は、受益者が事実審口頭弁論終結時までに当該不動産の全部又は一部を他に処分した場合において、その処分後に予期しえない価額の高騰があり、詐害行為がなくても債権者としては右高騰による弁済の利益を受けえなかったものと認められる等特別の事情がないかぎり、詐害行為取消の効果が生じ受益者において財産回復義務を負担する時、すなわち、詐害行為取消訴訟の認容判決確定時に最も接着した時点である事実審口頭弁論終結時を基準とするのが、詐害行為によって債務者の財産を逸出させた責任を原因として債務者の財産を回復させることを目的とする詐害行為取消制度の趣旨に合致し、また、債権者と受益者の利害の公平を期しえられるからである。
前提知識と簡単な解説
以下の解説は、特に記載のない限り、本件当時に適用される法令の規定に従っています。詐害行為取消権
債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができます(民法424条1項本文)。この債権者の権利を「詐害行為取消権」といいます。詐害行為取消権は、債務者の責任財産を保全するために、一般財産を減少させる債務者の行為の効力を否認して、債務者の一般財産から逸出したものを取り戻すことを目的とします。価格賠償と算定基準時
逸出財産の返還の方法は、原則として現物の返還によりますが、例外的に、受益者が詐害行為によって得た利益を保有していない場合(大審院昭和7年9月15日判決)や、抵当権が設定されている不動産を抵当権者に代物弁済として譲渡されて抵当権が消滅している場合(最高裁昭和36年7月19日大法廷判決)など、特別な事情がある場合には、価格の賠償によることになります。詐害行為取消において価格賠償をすべき場合に、評価の基準時については、(1)取消の対象である行為時、(2) 取消権行使の相手方の目的物処分時、(3) 取消権行使時、(4) 事実審口頭弁論終結時などが考えられます。
本判決は、「特別の事情がないかぎり、当該詐害行為取消訴訟の事実審口頭弁論終結時を基準としてなすべきものと解する」と判示しました。