本判決の内容(抜粋)

最高裁昭和58年9月6日第三小法廷判決
 不法行為の被害者が自己の権利擁護のため訴えを提起することを余儀なくされ、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、右不法行為と相当因果関係に立つ損害であり、被害者が加害者に対しその賠償を求めることができると解すべきことは、当裁判所の判例(最高裁昭和四一年(オ)第二八〇号同四四年二月二七日第一小法廷判決・民集二三巻二号四四一頁)とするところである。しかして、不法行為に基づく損害賠償債務は、なんらの催告を要することなく、損害の発生と同時に遅滞に陥るものと解すべきところ(最高裁昭和三四年(オ)第一一七号同三七年九月四日第三小法廷判決・民集一六巻九号一八三四頁参照)、弁護士費用に関する前記損害は、被害者が当該不法行為に基づくその余の費目の損害の賠償を求めるについて弁護士に訴訟の追行を委任し、かつ、相手方に対して勝訴した場合に限って、弁護士費用の全部又は一部が損害と認められるという性質のものであるが、その余の費目の損害と同一の不法行為による身体傷害など同一利益の侵害に基づいて生じたものである場合には一個の損害賠償債務の一部を構成するものというべきであるから(最高裁昭和四三年(オ)第九四三号同四八年四月五日第一小法廷判決・民集二七巻三号四一九頁参照)、右弁護士費用につき不法行為の加害者が負担すべき損害賠償債務も、当該不法行為の時に発生し、かつ、遅滞に陥るものと解するのが相当である。なお、右損害の額については、被害者が弁護士費用につき不法行為時からその支払時までの間に生ずることのありうべき中間利息を不当に利得することのないように算定すべきものであることは、いうまでもない。

前提知識と簡単な解説

金製債務の遅滞の責任

金銭債務の不履行による損害賠償金を「遅延損害金」といいます。
遅延損害金の額は、法定利率によります(民法419条1項本文)。ただし、法定利率を超える約定利率が定められているときは、約定利率によることとなります(民法419条1項ただし書)。
債権者が遅延損害金を請求するには損害の証明をすることを要せず、債務者は不可抗力をもって支払を拒むことはできません(民法419条2項)。

遅延損害金が発生するのは、履行遅滞となった時からです。履行遅滞となる時期は、(a) 確定期限のある債務については、その期限の到来した時(民法412条1項)、(b) 不確定期限のある債務については、債務者が期限の到来を知った時(民法412条2項)、(c) 期限の定めのない債務については、債務者が履行の請求を受けた時(民法412条3項)とされています。

不法行為に基づく損害賠償債務の遅滞の時期

判例は、不法行為に基づく損害賠償債務について、「損害の発生と同時に、なんらの催告を要することなく、遅滞に陥るものと解する」と判示しています(最高裁昭和37年9月4日第三小法廷判決)。

本判決の意義

本件では、不法行為と相当因果関係に立つ損害である弁護士費用の賠償債務が、いつ遅滞に陥るかが問題となりました。
この点について、本判決は、「弁護士費用につき不法行為の加害者が負担すべき損害賠償債務も、当該不法行為の時に発生し、かつ、遅滞に陥るものと解する」と判示しました。