本判決の内容(抜粋)

最高裁平成10年2月26日第一小法廷判決
 相続人に対する遺贈が遺留分減殺の対象となる場合においては、右遺贈の目的の価額のうち受遺者の遺留分額を超える部分のみが、民法一〇三四条にいう目的の価額に当たるものというべきである。けだし、右の場合には受遺者も遺留分を有するものであるところ、遺贈の全額が減殺の対象となるものとすると減殺を受けた受遺者の遺留分が侵害されることが起こり得るが、このような結果は遺留分制度の趣旨に反すると考えられるからである。そして、特定の遺産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言による当該遺産の相続が遺留分減殺の対象となる場合においても、以上と同様に解すべきである。

前提知識と簡単な解説

贈与及び遺贈の減殺請求

遺留分とは、一定の相続人のために留保されなければならない遺産の一定割合をいいます。
遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び1030条に規定する贈与の減殺を請求することができます(民法1031条)。
減殺の順序は、贈与より先に遺贈を減殺することとなります(民法1033条)。遺贈は、遺言者がその遺言に別段の意思を表示した場合を除き、その目的の価額の割合に応じて減殺するものとされています(民法1034条本文)。

本判決の意義

本件では、相続人に対する遺贈が減殺の対象となる場合に、減殺の対象となるのは、遺贈の全額か、受遺者の遺留分額を超える部分のみかが問題となりました。
この点について、本判決は、「遺贈の目的の価額のうち受遺者の遺留分額を超える部分のみが、民法一〇三四条にいう目的の価額に当たる」と判示しました。

追記:平成30年民法(相続関係)改正について

平成30年民法改正により、本判決の趣旨を踏まえ、受遺者又は受贈者が相続人である場合には、遺贈又は贈与の価額から第1042条の規定による遺留分として当該相続人が受けるべき額を控除した額を限度として、遺留分侵害額を負担することが規定されました(平成30年改正後の民法1047条1項)。