本判決の内容(抜粋)

最高裁平成13年11月22日第一小法廷判決
 1 本件は,遺言によって被上告人が相続すべきものとされた不動産につき,当該遺言で相続分のないものとされた相続人に対して貸金債権を有する上告人が,当該相続人に代位して法定相続分に従った共同相続登記を経由した上,当該相続人の持分に対する強制競売を申し立て,これに対する差押えがされたところ,被上告人がこの強制執行の排除を求めて提起した第三者異議訴訟である。上告人は,上記債権を保全するため,当該相続人に代位して遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をし,その遺留分割合に相当する持分に対する限度で上記強制執行はなお効力を有すると主張した。
 2 遺留分減殺請求権は,遺留分権利者が,これを第三者に譲渡するなど,権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除き,債権者代位の目的とすることができないと解するのが相当である。その理由は次のとおりである。
 遺留分制度は,被相続人の財産処分の自由と身分関係を背景とした相続人の諸利益との調整を図るものである。民法は,被相続人の財産処分の自由を尊重して,遺留分を侵害する遺言について,いったんその意思どおりの効果を生じさせるものとした上,これを覆して侵害された遺留分を回復するかどうかを,専ら遺留分権利者の自律的決定にゆだねたものということができる(1031条,1043条参照)。そうすると,遺留分減殺請求権は,前記特段の事情がある場合を除き,行使上の一身専属性を有すると解するのが相当であり,民法423条1項ただし書にいう「債務者ノ一身ニ専属スル権利」に当たるというべきであって,遺留分権利者以外の者が,遺留分権利者の減殺請求権行使の意思決定に介入することは許されないと解するのが相当である。民法1031条が,遺留分権利者の承継人にも遺留分減殺請求権を認めていることは,この権利がいわゆる帰属上の一身専属性を有しないことを示すものにすぎず,上記のように解する妨げとはならない。なお,債務者たる相続人が将来遺産を相続するか否かは,相続開始時の遺産の有無や相続の放棄によって左右される極めて不確実な事柄であり,相続人の債権者は,これを共同担保として期待すべきではないから,このように解しても債権者を不当に害するものとはいえない。
 3 以上と同旨の見解に基づき,本件において遺留分減殺請求権を債権者代位の目的とすることはできないとして,被上告人の第三者異議を全部認容すべきとした原審の判断は,正当として是認することができる。所論引用の判例は,所論の趣旨を判示したものではなく,上記判断はこれと抵触するものではない。論旨は採用することができない。

前提知識と簡単な解説

遺贈及び贈与の減殺請求

遺留分とは、一定の相続人のために留保されなければならない遺産の一定割合をいいます。遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定します(民法1029条1項)。
遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び1030条に規定する贈与の減殺を請求することができます(民法1031条)。
遺留分減殺請求権の行使は受贈者または受遺者に対する意思表示によってなせば足り、必ずしも裁判上の請求による必要はありません(最高裁昭和41年7月14日第一小法廷判決)。

債権者代位権

債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができます(民法423条1項本文)。ただし、債務者の一身に専属する権利は、行使することができません(民法423条1項ただし書)。

本判決の意義

民法423条1項ただし書が、債務者の一身に専属する権利は、債権者代位の対象とならないと定めていることから、遺留分減殺請求権が債務者の一身に専属する権利に当たるか否かが問題となりました。
本判決は、民法が遺留分減殺請求権の行使を専ら遺留分権利者の自律的決定にゆだねており、遺留分権利者以外の者が、遺留分権利者の減殺請求権行使の意思決定に介入することは許されないとして、「遺留分減殺請求権は,遺留分権利者が,これを第三者に譲渡するなど,権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除き,債権者代位の目的とすることができない」と判示しました。