民法第904条の3
前3条の規定は、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。

  1. 相続開始の時から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
  2. 相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

条文の趣旨と解説

令和3年民法・不動産登記法改正により新設された規定です。
遺産分割は、特別受益(903条904条)や寄与分(904条の2)などを踏まえて算定される具体的相続分に沿って行われることになりますが、相続開始から長期間が経過すると、証拠が散逸するなどして、他の相続人が反証等をすることが困難になると考えられます。また、相続開始から長期間を経たときは、他の相続人から具体的相続分の主張がされるとは想定し難いため、相続人は、法定相続分に従った分割がされることに一定の期待を有しているとも考えられます(『民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明』)。
そこで、改正民法では、相続開始から10年を経過したときは、共同相続人は、具体的相続分の主張をすることができないものとされました(本条本文)。

もっとも、(1) 相続開始の時から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき、(2) 相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由があった場合において、その事由が消滅した時から6箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき、は、具体的相続分の割合による遺産分割を求めることができるとされています(本条ただし書)。

遺産の分割に関する経過措置

本条の規定は、改正民法の施行日(令和5年4月1日)前に相続が開始した遺産の分割についても、適用されます。ただし、経過措置により、少なくとも施行の時から5年の猶予期間が設けられています(改正附則3条)。

条文の位置付け