- 借家に住んでいます。破産したら、賃貸借契約を解除されてしまうのでしょうか。
- 破産の申立てを行ったこと自体を理由として、賃貸人から賃貸借契約を解除することは認められていません。しかし、以前から賃料の滞納があるなど、当事者間の信頼関係を破壊するに至る程度の債務不履行がある場合には、債務不履行を理由として賃貸人から賃貸借契約を解除される可能性はあります。
破産手続開始決定を受けたことによる解除の可否
(a) 法令の規定に基づく解除
平成16年改正前民法621条は、「賃借人が破産の宣告を受けたるときは賃貸借に期間の定めあるときといえども賃貸人又は破産管財人は第617条の規定によりて解約の申入をなすことを得」と定めていましたたが、不動産賃貸借について不当な結果を生むとの批判がされており、平成16年法律第76号により削除されました。そして、破産手続が開始された場合の賃貸借契約は、残存期間の義務が残る双方未履行の双務契約として、破産法53条の規律によることとされました。
破産法53条は、破産管財人は、双方未履行双務契約につき、「契約の解除をし、又は破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。」と定めます。
したがって、破産管財人は、破産者である賃借人の賃貸借契約を解除することもできますが、しかし、実務上、破産者の居住用家屋の賃貸借契約は、維持されることが通常です。
(b) 賃貸借契約の特約に基づく解除
賃貸借契約書には、破産手続開始の申立てを受け、又は自ら申立を行ったとき、賃貸人は直ちに賃貸借契約を解除することができる旨の特約が記載されている場合があります。
しかし、当該特約は、賃貸人の解約を制限する借地借家法の趣旨に反し、賃借人に不利なものであるから、無効と解されています(借家法に関する判例として、最高裁昭和43年11月21日第一小法廷判決)。
したがって、たとえ賃貸借契約書に特約が定められていたとしても、賃貸人は、賃借人が破産手続開始の申立てを行ったことのみを理由として、解除することはできないものと考えられます。
家賃の滞納がある場合
ただし、破産手続開始の申立ての前より賃料を滞納しており、当事者間の信頼関係を破壊するに至る程度の債務不履行がある場合には、賃貸人は、賃借人の債務不履行を理由として賃貸借契約を解除することができますので、注意が必要です。
関連条文
- 破産法第53条
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- 双務契約について破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、破産管財人は、契約の解除をし、又は破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。
- 前項の場合には、相手方は、破産管財人に対し、相当の期間を定め、その期間内に契約の解除をするか、又は債務の履行を請求するかを確答すべき旨を催告することができる。この場合において、破産管財人がその期間内に確答をしないときは、契約の解除をしたものとみなす。
- 前項の規定は、相手方又は破産管財人が民法第631条前段の規定により解約の申入れをすることができる場合又は同法第642条第1項前段の規定により契約の解除をすることができる場合について準用する。