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昨今、新聞やテレビなどのニュースにおいて、長時間労働、残業代の未払いなどの労働に関する問題を目や耳にすることが多くなってきています。そして、ご自身も、労働に関する問題で悩まれている方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで、今回のコラムでは、労働に関する紛争の解決手段の1つでもある労働審判制度(労働審判手続)をご紹介いたします。

1 労働審判手続

通常の民事訴訟は、訴訟手続が長期にわたることが多く、労働者の生活に密接に関連する労働紛争を解決するための制度としては利用しにくい場合があります。
民事訴訟の流れ(参照)
一方で、労働審判手続は、原則として3回以内の期日における早期の解決、かつ実情に即した解決を目指した制度です。

2 労働審判手続の特徴について

労働審判手続の主な特徴として、「迅速」が挙げられます。
また、裁判官の中から指定される労働審判官と、労働関係につき専門的な知識経験を持つ労働審判員とで組織される労働審判委員会が、事件を審理し、調停を試み、審判を行うことから、「専門」、「柔軟」という特徴もあります。

2.1 迅速性

労働審判手続は、特別の事情がある場合を除き、3回以内の期日で審理が終わります。
第1回目の期日では、労働審判委員会は、当事者の言い分を聞いて争点と証拠の整理を行い、可能な証拠調べも実施します。したがって、当事者としても、早期に、事案に関する全ての主張をし、参考となる情報を提供します。
また、労働審判の審理には口頭主義が採用されており、1回目の期日までに提出された申立書と答弁書以外の書面の提出は原則として認められていません。答弁に対する反論や再反論等は、期日において口頭で行います。

2.2 専門性

労働審判手続は、全国の各地方裁判所に設置された労働審判委員会が行います。労働審判手続の申立てを受けた各地方裁判所は、同裁判所の裁判官の中から労働審判官1名を指定し、同裁判所に所属している労働審判員の中から労働者代表として1名、使用者代表として1名を指定します。この3名が当該労働審判手続事件を担当する労働審判委員会を構成します。

2.3 柔軟性

労働審判では、柔軟な解決をするために、話し合いにより解決する見込みがある場合には、まずは調停による解決が試みられます。調停による解決に至らない場合に、労働審判を行います。
労働審判手続では原則として非公開とされていますので、当事者双方における意見の交換や議論、交渉等が行いやすい手続といえます。

3 労働審判手続の対象となる労働紛争

解雇や雇止めの効力に関する紛争、未払い残業代や退職金に関する紛争など、労働者個人と事業主との間の民事に関する争いです。なお、労働組合と事業主との間に生じたいわゆる集団的労使紛争や行政事件等は労働審判手続の対象とはなりません。

以上の特徴を踏まえつつ、労働審判手続の流れを簡単にご説明します。

4 労働審判手続の流れ

4.1 申立書の提出

労働審判手続を申し立てるには、管轄する地方裁判所に「申立書」を提出します。
申立書には、当事者の氏名や住所など形式的な事項、「申立ての趣旨」「申立ての理由」を記載するほか、以下の事項を記載します。

  • 「予想される争点及び当該争点に関連する重要な事実」
  • 「予想される争点ごとの証拠」
  • 「当事者間においてされた交渉その他申立てに至る経緯の概要」

このような記載が求められるのは、3回以内の期日で審理を終結させるために、最初からできるだけ争点を分かりやすくして、1回目の期日から実質的な審理に入れるようにするためです。
また、予想される争点に関する証拠書類があるときは、証拠書類の写しを申立書に添付します。

4.2 提出された申立書は?

裁判所の審査を経たうえで、裁判所から、相手方に、申立書の写し及び証拠書類の写しが送付されます。

4.3 申立書を受け取った相手方はどうすればよい?

申立書を受け取った相手方は、「答弁書」という書面を、裁判所に提出します。答弁書には、以下の事項を記載します。

  • 「申立ての趣旨に対する答弁」
  • 「申立書に記載された事実に対する認否」
  • 「答弁を理由づける具体的な事実」
  • 「予想される争点及び当該争点に関連する重要な事実」
  • 「予想される争点ごとの証拠」
  • 「当事者間においてされた交渉その他申立てに至る経緯の概要」

4.4 労働審判期日

労働審判手続では上述しましたように「口頭主義」が採用されていますので、申立書及び答弁書を提出した後の答弁に対する反論、再反論などは、原則として口頭でするものとされています。もっとも、事実関係が複雑な場合や金額の計算が問題となる場合などには、口頭での主張を補充する書面を提出することが認められます。

4.5 労働審判

調停が成立しない場合には、労働審判委員会は、審判を行います。
審判に不服がある場合には、当事者は、審判の告知を受けた日から二週間内に、異議を申し立てることができます。適法な異議の申し立てがあった場合には、労働審判は効力を失い、通常の訴訟に移行します。これに対して、当事者から異議の申立てがなかった場合には、労働審判は、裁判上の和解と同一の効力を有するものとして扱われます。

法律相談について

今回のコラムでは、労働審判手続の概略をご説明いたしましたが、ご自身で労働問題を抱えている場合には、労働審判手続による解決を図ることが事案の性質上ふさわしいかどうかも含め、弁護士等の専門家に相談されることをお勧めいたします。