遺産分割未了の間に相続人が死亡した場合において、第二次被相続人が取得した第一次被相続人の遺産についての相続分に応じた共有持分権は、実体上の権利であって第二次被相続人の遺産として「遺産分割手続を経る必要があり」、第二次被相続人から特別受益を受けた者があるときは、その「持戻しをして各共同相続人の具体的相続分を算定しなければならない」と判示しました。
事案の概要
- X、Y1及びY2は、いずれも甲と乙の間の子である。甲は平成7年に、乙は平成10年に、それぞれ死亡した。甲の法定相続人は、乙、X、Y1及びY2であり、乙の法定相続人は、X、Y1及びY2である。
- 被相続人甲に係る遺産分割の対象となる遺産は、不動産及び現金である。X及びY2には、甲との関係で特別受益がある。
- 被相続人乙は、不動産を所有していたが、遺言公正証書により、これをXに相続させる旨の遺言をした。Xは、乙の死亡により、同遺言に基づき、上記不動産を単独で取得した。乙は、上記不動産以外に遺産分割の対象となる固有の財産を有していなかった。
- X及びY1は、Y2は乙から特別受益に当たる贈与を受けた旨の主張をしている。
原審(大阪高等裁判所)は、次のように判示しました。
「 (1) 乙には,その相続開始時において,遺産分割の対象となる固有の財産はなく,甲の遺産に対する乙の相続分は,甲の遺産を取得することができるという抽象的な法的地位であって,遺産分割の対象となり得る具体的な財産権ではない。そうすると,審判によって分割すべき乙の遺産は存在しないから,乙に係る遺産の分割申立ては不適法である。
(2) 上記乙の相続分は,上記(1)に記載した内容のものであるから,遺産分割手続を要せずして,乙の相続人である抗告人及び相手方らに民法900条所定の割合に応じて当然に承継される。そして,遺産分割手続によらない承継には民法903条は適用されず,また,乙にはその相続開始時に遺産分割の対象となる固有の財産もないから,相手方Y2について主張されている乙からの特別受益を考慮する場面はない。したがって,甲の遺産については,甲との関係における抗告人及び相手方Y2の各特別受益を持ち戻して算定される抗告人及び相手方らの各具体的相続分に基づいて分割することとなる。」
本決定の内容(抜粋)
- 最高裁平成17年10月11日第三小法廷決定
- 遺産は,相続人が数人ある場合において,それが当然に分割されるものでないときは,相続開始から遺産分割までの間,共同相続人の共有に属し,この共有の性質は,基本的には民法249条以下に規定する共有と性質を異にするものではない(最高裁昭和28年(オ)第163号同30年5月31日第三小法廷判決・民集9巻6号793頁,最高裁昭和47年(オ)第121号同50年11月7日第二小法廷判決・民集29巻10号1525頁,最高裁昭和57年(オ)第184号同61年3月13日第一小法廷判決・民集40巻2号389頁参照)。そうすると,共同相続人が取得する遺産の共有持分権は,実体上の権利であって遺産分割の対象となるというべきである。
本件における甲及び乙の各相続の経緯は,甲が死亡してその相続が開始し,次いで,甲の遺産の分割が未了の間に甲の相続人でもある乙が死亡してその相続が開始したというものである。そうすると,乙は,甲の相続の開始と同時に,甲の遺産について相続分に応じた共有持分権を取得しており,これは乙の遺産を構成するものであるから,これを乙の共同相続人である抗告人及び相手方らに分属させるには,遺産分割手続を経る必要があり,共同相続人の中に乙から特別受益に当たる贈与を受けた者があるときは,その持戻しをして各共同相続人の具体的相続分を算定しなければならない。
前提知識と簡単な解説
相続の効力
相続は、被相続人の死亡によって開始し(民法882条)、相続人は、相続開始の時から、被相続人の一身に専属したものを除き(民法896条ただし書)、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条本文)。
相続人が数人あるときは、相続財産は、共同相続人の共有に属し(民法898条1項)、各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します(民法899条)。この「共有」は、民法249条以下に規定する「共有」とその性質を異にするものではないと解されており(最高裁昭和30年5月31日第三小法廷判決)、「遺産共有」と呼ばれています。
各共同相続人は、遺産共有を解消するために、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができ(民法907条1項)、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、遺産の分割を家庭裁判所に請求することができます(民法907条2項本文)。
本決定の位置付け
第二次被相続人が取得していた相続分が、遺産分割の対象となる遺産を構成するかどうかという問題について、相続分は遺産分割の対象となり得る具体的な財産権ではないという立場がありました(原審の考え方)。これに対して、本決定は、「共同相続人が取得する遺産の共有持分権は,実体上の権利であって遺産分割の対象となる」と判断しました。