共同相続人の一人である乙が、他の共同相続人甲の名義を冒用した偽造文書により、単独相続したように登記したうえ、丙のために売買予約の仮登記を経由したという事案において、
(1) 甲は乙及び丙に対し自己の持分を登記なくして対抗できる、
(2) 甲が乙丙に対し請求できるのは、甲の持分についてのみの一部抹消(更正)登記手続であって、各登記の全部抹消を求めることは許されない、
(3) 甲が乙丙に対しと登記の全部抹消登記手続を求めたのに対し、裁判所が乙丙に対し一部抹消(更正)登記手続を命ずる判決をしても、当事者が申し立てていない事項について判決をした違法はない、
と判示しました。

本件判決の内容(抜粋)

最高裁昭和38年2月22日第二小法廷判決
相続財産に属する不動産につき単独所有権移転の登記をした共同相続人中の乙ならびに乙から単独所有権移転の登記をうけた第三取得者丙に対し、他の共同相続人甲は自己の持分を登記なくして対抗しうるものと解すべきである。けだし乙の登記は甲の持分に関する限り無権利の登記であり、登記に公信力なき結果丙も甲の持分に関する限りその権利を取得するに由ないからである(大正八年一一月三日大審院判決、民録二五輯一九四四頁参照)。そして、この場合に甲がその共有権に対する妨害排除として登記を実体的権利に合致させるため乙、丙に対し請求できるのは、各所有権取得登記の全部抹消登記手続ではなくして、甲の持分についてのみの一部抹消(更正)登記手続でなければならない(大正一〇年一〇月二七日大審院判決、民録二七輯二〇四〇頁、昭和三七年五月二四日最高裁判所第一小法廷判決、裁判集六〇巻七六七頁参照)。けだし右各移転登記は乙の持分に関する限り実体関係に符合しており、また甲は自己の持分についてのみ妨害排除の請求権を有するに過ぎないからである。
 従つて、本件において、共同相続人たる上告人らが、本件各不動産につき単独所有権の移転登記をした他の共同相続人であるDから売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記を経由した被上告人らに対し、その登記の全部抹消登記手続を求めたのに対し、原判決が、Dが有する持分九分の二についての仮登記に更正登記手続を求める限度においてのみ認容したのは正当である。また前示のとおりこの場合更正登記は実質において一抹部抹消登記であるから、原判決は上告人らの申立の範囲内でその分量的な一部を認容したものに外ならないというべく、従つて当事者の申立てない事項について判決をした違法はないから、所論は理由なく排斥を免れない。

前提知識と簡単な解説

共同相続の効力について

相続は、被相続人の死亡によって開始し(民法882条)、相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継し(民法896条本文)、相続人が数人あるときは、相続財産は、共同相続人の共有に属し(民法898条1項)、各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します(民法899条)。この「共有」は、民法249条以下に規定する「共有」とその性質を異にするものではないと解されています(最高裁昭和30年5月31日第三小法廷判決)。

本判決の位置付け

共同相続人が、第三者に対して登記なくして自己の持分を主張できるかが問題となります。
この問題については、共有持分の性質の議論とも関連して、持分を主張する共同相続人と完全な単独所有権を主張する第三取得者は対抗関係に立ち、共同相続人は登記なくして第三取得者に対抗することはできないという見解も主張されていました(舟橋諄一『物権法』)。
これに対して、本判決は、共有者の一人が単独所有権の登記をしても、自己の持分以外については無権利の登記であること、登記に公信力がない以上、第三取得者も他の共有者の持分を取得することはないことを理由として、共同相続人は第三取得者に対して、「自己の持分を登記なくして対抗しうる」との判断を示しました。