事案の概要
- 亡Dは、昭和33年6月11日付遺言により本件不動産をE外5名に遺贈した。
- 昭和33年6月17日、Cの死亡により当該遺贈の効力が生じた。
- 当該遺贈を原因とする所有権移転登記がされない間に、Y(被上告人)は、昭和33年7月10日、Dの相続人の一人であるFに対する強制執行として、当該相続人に代位し同人のために本件不動産につき相続による持分(4分の1)取得の登記をなし、ついでFの取得した当該持分に対する強制執行申立が登記簿に記入された。
- 競売申立記入登記後、X(上告人)が遺言執行者に選任された。
本件判決の内容(抜粋)
- 最高裁昭和39年3月6日第二小法廷判決
- ところで、不動産の所有者が右不動産を他人に贈与しても、その旨の登記手続をしない間は完全に排他性ある権利変動を生ぜず、所有者は全くの無権利者とはならないと解すべきところ(当裁判所昭和三一年(オ)一〇二二号、同三三年一〇月一四日第三小法廷判決、集一二巻一四号三一一一頁参照)、遺贈は遺言によつて受遺者に財産権を与える遺言者の意思表示にほかならず、遺言者の死亡を不確定期限とするものではあるが、意思表示によつて物権変動の効果を生ずる点においては贈与と異なるところはないのであるから、遺贈が効力を生じた場合においても、遺贈を原因とする所有権移転登記のなされない間は、完全に排他的な権利変動を生じないものと解すべきである。そして、民法一七七条が広く物権の得喪変更について登記をもつて対抗要件としているところから見れば、遺贈をもつてその例外とする理由はないから、遺贈の場合においても不動産の二重譲渡等における場合と同様、登記をもつて物権変動の対抗要件とするものと解すべきである。しかるときは、本件不動産につき遺贈による移転登記のなされない間に、亡Dと法律上同一の地位にあるFに対する強制執行として、Fの前記持分に対する強制競売申立が登記簿に記入された前記認定の事実関係のもとにおいては、競売中立をした被上告人は、前記Fの本件不動産持分に対する差押債権者として民法一七七条にいう第三者に該当し、受遺者は登記がなければ自己の所有権取得をもつて被上告人に対抗できないものと解すべきであり、原判決認定のように競売申立記入登記後に遺言執行者が選任せられても、それは被上告人の前記第三者たる地位に影響を及ぼすものでないと解するのが相当である。
前提知識と簡単な解説
共同相続の効力について
相続は、被相続人の死亡によって開始し(民法882条)、相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継し(民法896条本文)、相続人が数人あるときは、相続財産は、共同相続人の共有に属し(民法898条1項)、各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します(民法899条)。
遺贈について
遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができます(民法964条)。特定名義の遺贈は、遺産中の指定された特定の財産を目的とするものであり、「特定遺贈」といいます。
遺言は遺言者の死亡の時からその効力を生じ(民法985条1項)、同時に、特定遺贈の目的たる財産は物権的効力を生じ直接に受遺者に移転すると解されています(大審院大正5年11月8日判決)。
本判決の位置付け
上記のとおり特定遺贈は、遺言者の死亡と同時に物権的効力が生ずるとしても、受遺者がその権利取得を登記なくして第三者に対抗できるかは、別に問題となります。
本判決は、受遺者は登記がなければ自己の所有権取得をもって第三者に対抗できないと判示しました。