本件は、遺産分割審判がされた後、当該審判には特別受益の有無やその評価に対する判断に誤りがあるなどと主張し、具体的相続分の価額及び割合の確認を求めて、訴えが提起されたものです。

本判決の内容(抜粋)

最高裁平成12年2月24日第一小法廷判決
 民法九〇三条一項は、共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻、養子縁組のため若しくは生計の資本としての贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、法定相続分又は指定相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除し、その残額をもって右共同相続人の相続分(以下「具体的相続分」という。)とする旨を規定している。具体的相続分は、このように遺産分割手続における分配の前提となるべき計算上の価額又はその価額の遺産の総額に対する割合を意味するものであって、それ自体を実体法上の権利関係であるということはできず、遺産分割審判事件における遺産の分割や遺留分減殺請求に関する訴訟事件における遺留分の確定等のための前提問題として審理判断される事項であり、右のような事件を離れて、これのみを別個独立に判決によって確認することが紛争の直接かつ抜本的解決のため適切かつ必要であるということはできない。
 したがって、共同相続人間において具体的相続分についてその価額又は割合の確認を求める訴えは、確認の利益を欠くものとして不適法であると解すべきである。

前提知識と簡単な解説

共同相続の効力について

相続は、被相続人の死亡によって開始し(民法882条)、相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継し(民法896条本文)、相続人が数人あるときは、相続財産は、共同相続人の共有に属し(民法898条1項)、各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します(民法899条)。
各共同相続人は、共有状態を解消するために、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができ(民法907条1項)、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、遺産の分割を家庭裁判所に請求することができます(民法907条2項本文)。

相続分について

民法は、同順位の相続人が数人ある場合の相続分を定めていますが(民法900条民法901条。「法定相続分」といいます。)、被相続人が遺言で相続分を定めていたとき又は相続分の指定を第三者に委託していたときは、これにより指定された相続分が法定相続分に優先します(民法902条。「指定相続分」といいます。)。
しかし、共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本としての贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、法定相続分又は指定相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とします(民法903条1項。「具体的相続分」といいます。)。

確認の訴えにおける確認の利益

確認の訴えにおける確認の利益は、確認判決をもって法律関係の存否を確定することが、その法律関係に関する法律上の紛争を解決し、当事者の法律上の地位の不安、危険を除去するために必要かつ適切である場合に認められます。このような法律関係の存否の確定は、右の目的のために最も直接的かつ効果的になされることを要し、通常は、紛争の直接の対象である現在の法律関係について個別にその確認を求めるのが適当であるとともに、それをもつて足り、その前提となる法律関係、とくに過去の法律関係に遡ってその存否の確認を求めることは、その利益を欠くものと解されます。
しかし、ある基本的な法律関係から生じた法律効果につき現在法律上の紛争が存在し、現在の権利または法律関係の個別的な確定が必ずしも紛争の抜本的解決をもたらさず、かえつて、これらの権利または法律関係の基本となる法律関係を確定することが、紛争の直接かつ抜本的な解決のため最も適切かつ必要と認められる場合においては、右の基本的な法律関係の存否の確認を求める訴も、それが現在の法律関係であるか過去のそれであるかを問わず、確認の利益があるものと認めて、これを許容すべきものと解されています(最高裁昭和47年11月9日第一小法廷判決)。

本判決の位置付け

特別受益の有無は、遺産分割の前提事項として、遺産分割審判手続において判断されます。
これとは別に、特別受益の存否について、その確認訴訟を提起することが許されるかどうかが議論されてきました。具体的な確認訴訟の類型としては、(1) 特定の財産が特別受益財産に該当するか否かの確認の訴え、(2) 具体的相続分の価額又は割合の確認の訴えなどがあると考えられてきました。

上記(1)の確認訴訟の類型については、判例は、「特定の財産が特別受益財産であることの確認を求める訴えは、確認の利益を欠くものとして不適法である」との判断を示していました(最高裁平成7年3月7日第三小法廷判決。以下「平成7年判決」といいます。)。

本判決は、上記(2)の類型について、確認の利益を否定したものです。
また、平成7年判決では問題とされなかった具体的相続分の法的性質について、具体的相続分は「遺産分割手続における分配の前提となるべき計算上の価額又はその価額の遺産の総額に対する割合を意味するものであって、それ自体を実体法上の権利関係であるということはできず、」と判示しています。