事案の概要

  • 本件不動産はもとAの所有であった。
  • Aは、昭和57年10月26日に死亡した。Aの相続人は、その子であるBと代襲相続人である孫の被上告人Xら5名であった。
  • BはAの相続につき承認又は放棄をしないでその熟慮期間内である昭和57年11月16日死亡した。
  • Bの法定相続人である妻C、長女D及び長男Eの3名は、Aの相続につき昭和58年1月25日家庭裁判所に相続放棄の申述をして受理された。なお、Cら3名は、その後Bの相続についても同裁判所に相続放棄の申述をして受理されている。
  • 上告人Yらは、Bに対し商品代金等の債権を有していたものであるところ、BがAから本件不動産を法定相続分の2分の1につき相続したものと主張して、地方裁判所に対しBを債務者として本件不動産の同人の持分2分の1について不動産仮差押を申請し、同裁判所は、昭和57年11月8日、この申請を認容する旨の決定をし、この決定の正本に基づき本件不動産のAの持分2分の1につき仮差押登記を嘱託した。

Xらは、C、D及びEは、Aに対する再転相続につき相続放棄の申述をし、申述は受理されたのであるから、Bは初めからAの相続人とならなかったことになり、本件不動産は、Xら5名が共同相続によりその所有者となったと主張して、Yらに対し、仮差押の執行としてなされた仮差押登記の抹消登記手続を求めました。

第一審及び原審は、Xらの請求を認容しました。

これに対して、Yらは、甲が死亡して、その相続人である乙が甲の相続につき承認又は放棄をしないで死亡し、丙が乙の法定相続人となったいわゆる再転相続の場合には、再転相続人たる丙は、乙の相続につき承認をするときに限り、甲の相続につき放棄をすることができるものと解すべきであって、C、D及びEら3名はAの相続を放棄し、かつ、Bの相続を放棄したのであるから、C、D及びEら3名がAの相続についてした放棄は無効に帰し、Bは本件不動産を法定相続分の2分の1につき相続したことになり、Yらが本件不動産のBの持分2分の1につきした仮差押の執行は適法である、と主張して、上告しました。

本判決の内容(抜粋)

最高裁昭和63年6月21日第三小法廷判決
 民法916条の規定は、甲の相続につきその法定相続人である乙が承認又は放棄をしないで死亡した場合には、乙の法定相続人である丙のために、甲の相続についての熟慮期間を乙の相続についての熟慮期間と同一にまで延長し、甲の相続につき必要な熟慮期間を付与する趣旨にとどまるのではなく、右のような丙の再転相続人たる地位そのものに基づき、甲の相続と乙の相続のそれぞれにつき承認又は放棄の選択に関して、各別に熟慮し、かつ、承認又は放棄をする機会を保障する趣旨をも有するものと解すべきである。そうであってみれば、丙が乙の相続を放棄して、もはや乙の権利義務をなんら承継しなくなった場合には、丙は、右の放棄によって乙が有していた甲の相続についての承認又は放棄の選択権を失うことになるのであるから、もはや甲の相続につき承認又は放棄をすることはできないといわざるをえないが、丙が乙の相続につき放棄をしていないときは、甲の相続につき放棄をすることができ、かつ、甲の相続につき放棄をしても、それによっては乙の相続につき承認又は放棄をするのになんら障害にならず、また、その後に丙が乙の相続につき放棄をしても、丙が先に再転相続人たる地位に基づいて甲の相続につきした放棄の効力がさかのぼって無効になることはないものと解するのが相当である。

前提知識と簡単な解説

相続の承認及び放棄について

相続は、被相続人の死亡によって開始し(民法882条)、相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するものとされています(民法896条本文)。
一方で、相続人は相続の承認又は放棄の選択をすることが認められており、相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に(「熟慮期間」といいます。)、相続について承認又は放棄をすることができます(民法915条1項本文)。

相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければなりません(民法938条)。相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。

相続人が単純承認をしたとき(民法920条)、又は熟慮期間内に限定承認若しくは相続放棄をしなかったとき(民法921条2号)は、相続人は確定的に被相続人の権利義務を承継することになります。

再転相続について

甲の相続人である乙が、甲の相続(第一次相続)について熟慮期間内に相続の承認又は放棄をしないで死亡し、さらに丙が乙の法定相続人となった場合(第二次相続)を「再転相続」と呼んでいます。
再転相続があった場合、民法915条1項の熟慮期間は、第二次相続人が「自己のために相続の開始があった時から起算する」と定められています(民法916条)。

本判決の位置付け

本判決は、再転相続人がした第一次相続についての相続放棄の効力について、「丙が乙の相続につき放棄をしていないときは、甲の相続につき放棄をすることができ、かつ、甲の相続につき放棄をしても、それによっては乙の相続につき承認又は放棄をするのになんら障害にならず、また、その後に丙が乙の相続につき放棄をしても、丙が先に再転相続人たる地位に基づいて甲の相続につきした放棄の効力がさかのぼって無効になることはない」と判示しました。