事案の概要

  • Aは、上告人Xから本件土地を建物所有の目的で賃借し、同土地上に本件建物を所有していた。
  • Aは、昭和42年4月6日死亡したが、相続人がなかったため本件建物と本件土地の賃借権を含む同人の遺産は相続財産法人となった。はじめBが相続財産管理人に選任され、同人辞任後はCがその相続財産管理人に選任された。
  • 昭和44年7月13日相続財産に関し家庭裁判所の特別縁故者に対する分与審判が確定したが、本件建物の所有権及びその敷地たる本件土地の賃借権は分与されずに残り、処分されなかった財産として、昭和46年1月1日、Cから国庫に引き継がれた。
  • Xは、これに先立つ昭和45年6月15日到達の書面をもって、Cに対し、本件土地の延滞賃料の催告及びそれが期限までに支払われないことを条件とする本件土地の賃貸借契約解除の意思表示をした。

原審は、残余相続財産たる本件各建物の所有権及び本件土地の賃借権は、特別縁故者に対する財産分与審判確定時に国庫に帰属し、それと同時にDの残余相続財産に関する相続財産管理人としての代理権も消滅したから、同人には上告人の本件土地の延滞賃料の催告及び賃貸借契約解除の意思表示を受領する権限がなかったとの理由のみに基づき、右賃料延滞の有無、更には被上告人らの主張する信頼関係を破壊するに足りない特段の事情の有無を確定することなく、右解除の意思表示の効力を否定した。

本判決の内容(抜粋)

最高裁昭和50年10月24日第二小法廷判決
 相続人不存在の場合において、民法九五八条の三により特別縁故者に分与されなかった残余相続財産が国庫に帰属する時期は、特別縁故者から財産分与の申立がないまま同条二項所定の期間が経過した時又は分与の申立がされその却下ないし一部分与の審判が確定した時ではなく、その後相続財産管理人において残余相続財産を国庫に引き継いだ時であり、したがって、残余相続財産の全部の引継が完了するまでは、相続財産法人は消滅することなく、相続財産管理人の代理権もまた、引継未了の相続財産についてはなお存続するものと解するのが相当である。民法九五九条は、法人清算の場合の同法七二条三項と同じく、残余相続財産の最終帰属者を国庫とすること即ち残余相続財産の最終帰属主体に関する規定であって、その帰属の時期を定めたものではない。

前提知識と簡単な解説

相続の効力

相続は、被相続人の死亡によって開始し(民法882条)、相続人は、相続開始の時から、被相続人の一身に専属したものを除き(民法896条ただし書)、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条本文)。

相続人の不存在

相続人のあることが明らかでないときは、相続財産の清算の目的のため、相続財産は法人とされ(民法951条)、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所は、相続財産の管理人を選任します(民法952条1項。追記:令和3年民法改正により「管理人」は「清算人」と名称を改められています。)。選任された相続財産管理人は、民法103条に定める保存行為等を行うほか、必要な場合には、家庭裁判所の許可を得た上で、保存等を超える行為をすることができます(民法953条において準用する民法28条)。
相続財産管理人は、すべての相続債権者及び受遺者に対し、一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告します(民法957条1項前段)。公告期間満了後、相続財産をもって、その期間内に申出をした相続債権者その他知れている相続債権者に、それぞれの債権額の割合に応じて弁済をし(民法957条2項において準用する民法929条本文)、その後に受遺者に対して弁済をします(民法957条2項において準用する民法931条)。

特別縁故者に対する相続財産の分与

相続人捜索の公告(令和3年改正前民法第958条)の期間内に相続人としての権利を主張する者がなかった場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができます(令和3年改正前民法第958条の3第1項)。
特別縁故者による請求は、相続人捜索の公告後3か月以内にしなければなりません(令和3年改正前民法第958条の3第2項
特別縁故者に対する相続財産の分与もされなかった相続財産は、国庫に帰属します(民法959条前段)。

本判決の意義

本判決は分与されなかった財産の国庫帰属の時期について、「特別縁故者から財産分与の申立がないまま同条二項所定の期間が経過した時又は分与の申立がされその却下ないし一部分与の審判が確定した時ではなく、その後相続財産管理人において残余相続財産を国庫に引き継いだ時」とし、また、相続財産管理人の代理権消滅の時期について、「残余相続財産の全部の引継が完了するまでは、相続財産法人は消滅することなく、相続財産管理人の代理権もまた、引継未了の相続財産についてはなお存続する」と判示しました。