本判決の内容(抜粋)
- 最高裁昭和51年7月19日第二小法廷判決
- 遺言執行者は、遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有し(民法一〇一二条)、遺贈の目的不動産につき相続人により相続登記が経由されている場合には、右相続人に対し右登記の抹消登記手続を求める訴を提起することができるのであり、また遺言執行者がある場合に、相続人は相続財産についての処分権を失い、右処分権は遺言執行者に帰属するので(民法一〇一三条、一〇一二条)、受遺者が遺贈義務の履行を求めて訴を提起するときは遺言執行者を相続人の訴訟担当者として被告とすべきである(最高裁昭和四二年(オ)第一〇二三号、同四三年五月三一日第二小法廷判決・民集二二巻五号一一三七頁)。更に、相続人は遺言執行者を被告として、遺言の無効を主張し、相続財産について自己が持分権を有することの確認を求める訴を提起することができるのである(最高裁昭和二九年(オ)第八七五号、同三一年九月一八日第三小法廷判決・民集一〇巻九号一一六〇頁)。右のように、遺言執行者は、遺言に関し、受遺者あるいは相続人のため、自己の名において原告あるいは被告となるのであるが、以上の各場合と異なり、遺贈の目的不動産につき遺言の執行としてすでに受遺者宛に遺贈による所有権移転登記あるいは所有権移転仮登記がされているときに相続人が右登記の抹消登記手続を求める場合においては、相続人は、遺言執行者ではなく、受遺者を被告として訴を提起すべきであると解するのが相当である。けだし、かかる場合、遺言執行者において、受遺者のため相続人の抹消登記手続請求を争い、その登記の保持につとめることは、遺言の執行に関係ないことではないが、それ自体遺言の執行ではないし、一旦遺言の執行として受遺者宛に登記が経由された後は、右登記についての権利義務はひとり受遺者に帰属し、遺言執行者が右登記について権利義務を有すると解することはできないからである。
前提知識と簡単な解説
遺贈について
遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができます(民法964条)。特定名義の遺贈は、遺産中の指定された特定の財産を目的とするものであり、「特定遺贈」といいます。
遺言は遺言者の死亡の時からその効力を生じ(民法985条1項)、特定遺贈の目的たる財産は物権的効力を生じ直接に受遺者に移転すると解されています(大審院大正5年11月8日判決)。しかし、不動産の遺贈については、登記をもって物権変動の対抗要件とする(民法177条)と解されていることから(最高裁昭和39年3月6日第二小法廷判決)、遺言執行者は、遺言の執行として、対抗要件を具備させる手続を行うこととなります。
遺言執行者の権利義務
遺言執行者がある場合、遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有し(民法1012条1項)、一方で、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができません(民法1013条1項)。
遺言の執行について遺言執行者が指定されまたは選任された場合、特定不動産の遺贈を受けた者がその遺言の執行として目的不動産の所有権移転登記を求める訴えにおいて、被告としての適格を有する者は遺言執行者にかぎられるのであって、相続人はその適格を有しないと解されています(最高裁昭和43年5月31日第二小法廷判決)。
本判決の意義
本判決は、遺贈の目的不動産につき遺言の執行としてすでに受遺者宛に遺贈による所有権移転登記あるいは所有権移転仮登記がされているときに相続人が右登記の抹消登記手続を求める場合においては、(1) 遺言執行者において、受遺者のため相続人の抹消登記手続請求を争い、その登記の保持につとめることは、遺言の執行に関係ないことではないが、それ自体遺言の執行ではない、(2) 一旦遺言の執行として受遺者宛に登記が経由された後は、右登記についての権利義務はひとり受遺者に帰属し、遺言執行者が右登記について権利義務を有すると解することはできないことを理由として、「相続人は、遺言執行者ではなく、受遺者を被告として訴を提起すべきである」と判示しました。