本判決の内容(抜粋)
- 最高裁平成14年11月5日第一小法廷判決
- 自己を被保険者とする生命保険契約の契約者が死亡保険金の受取人を変更する行為は、民法1031条に規定する遺贈又は贈与に当たるものではなく、これに準ずるものということもできないと解するのが相当である。けだし、死亡保険金請求権は、指定された保険金受取人が自己の固有の権利として取得するのであって、保険契約者又は被保険者から承継取得するものではなく、これらの者の相続財産を構成するものではないというべきであり(最高裁昭和36年(オ)第1028号同40年2月2日第三小法廷判決・民集19巻1号1頁参照)、また、死亡保険金請求権は、被保険者の死亡時に初めて発生するものであり、保険契約者の払い込んだ保険料と等価の関係に立つものではなく、被保険者の稼働能力に代わる給付でもないのであって、死亡保険金請求権が実質的に保険契約者又は被保険者の財産に属していたものとみることもできないからである。
前提知識と簡単な解説
遺留分の算定
遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定します(民法1029条1項)。
贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り、その価額を算入しますが(民法1030条前段)、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与したときは、1年前の日より前にした贈与についても、その価額を算入します(民法1030条後段)
遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び1030条に規定する贈与の減殺を請求することができます(民法1031条)。
死亡保険金請求権の帰属について
判例は、自己を被保険者とし、死亡保険金の受取人に第三者を指定する生命保険契約の法的性質を、「他人のための保険契約」と解しており、この死亡保険金請求権は「保険契約の効力発生と同時に右相続人の固有財産となり、被保険者(兼保険契約者)の遺産より離脱している」と判示しています(最高裁昭和40年2月2日第三小法廷判決)。
本判決の意義
本件では、自己を被保険者とする生命保険契約の契約者が死亡保険金の受取人を変更する行為が、民法1031条に規定する遺贈又は贈与に該当し、遺留分減殺請求の対象となるか否かが争われました。
この点について、本判決は、「自己を被保険者とする生命保険契約の契約者が死亡保険金の受取人を変更する行為は、民法1031条に規定する遺贈又は贈与に当たるものではなく、これに準ずるものということもできないと解する」と判示しました。