事案の概要
- Aは、昭和33年1月7日に死亡し、その妻であるB、二男であるX、長男Cの長女Y、Cの養子Dが共同相続した。
- Xは、大正12年頃から同15年頃にかけて就職のための運動費、旅費、事業のための資金として、Aから合計4525円の現金の贈与を受けていた。
- Aは、昭和2年頃、所有する不動産の一部をCに贈与し、昭和28年4月10日頃、所有する不動産の一部をDに贈与し、昭和31年5月28日、所有する不動産の一部をYに贈与していた。
本判決の内容(抜粋)
- 最高裁昭和51年3月18日第一小法廷判決
- 被相続人が相続人に対しその生計の資本として贈与した財産の価額をいわゆる特別受益として遺留分算定の基礎となる財産に加える場合に、右贈与財産が金銭であるときは、その贈与の時の金額を相続開始の時の貨幣価値に換算した価額をもって評価すべきものと解するのが、相当である。けだし、このように解しなければ、遺留分の算定にあたり、相続分の前渡としての意義を有する特別受益の価額を相続財産の価額に加算することにより、共同相続人相互の衡平を維持することを目的とする特別受益持戻の制度の趣旨を没却することとなるばかりでなく、かつ、右のように解しても、取引における一般的な支払手段としての金銭の性質、機能を損う結果をもたらすものではないからである。これと同旨の見解に立って、贈与された金銭の額を物価指数に従って相続開始の時の貨幣価値に換算すべきものとした原審の判断は、正当として是認することができる。
前提知識と簡単な解説
民法903条の特別受益について
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本としての贈与(「特別受益」といいます。)を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、法定相続分(民法900条、民法901条)又は指定相続分(民法902条)の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とします(民法903条1項)。
遺留分の算定
遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定します(民法1029条1項)。
民法887条2項(代襲者の相続権)、民法900条(法定相続分)、民法901条(代襲相続人の相続分)、民法903条及び民法904条(特別受益者の相続分)は、遺留分について準用するものとされています(民法1041条)。
本判決の意義
本件では、大正12年ないし15年当時と相続開始時とでは物価指数において後者が前者の少なくとも250倍以上であったことから、贈与された金銭の額を相続開始時の貨幣価値に換算して評価すべきかどうかが、問題となりました。
この点について、本判決は、「被相続人が相続人に対しその生計の資本として贈与した財産の価額をいわゆる特別受益として遺留分算定の基礎となる財産に加える場合に、右贈与財産が金銭であるときは、その贈与の時の金額を相続開始の時の貨幣価値に換算した価額をもって評価すべきものと解する」と判示しました。