本判決の内容(抜粋)

最高裁昭和41年7月14日第一小法廷判決
 遺留分権利者が民法一〇三一条に基づいて行う減殺請求権は形成権であって、その権利の行使は受贈者または受遺者に対する意思表示によってなせば足り、必ずしも裁判上の請求による要はなく、また一たん、その意思表示がなされた以上、法律上当然に減殺の効力を生ずるものと解するのを相当とする。従って、右と同じ見解に基づいて、被上告人が相続の開始および減殺すべき本件遺贈のあったことを知った昭和三六年二月二六日から元年以内である昭和三七年一月一〇日に減殺の意思表示をなした以上、右意思表示により確定的に減殺の効力を生じ、もはや右減殺請求権そのものについて民法一〇四二条による消滅時効を考える余地はないとした原審の判断は首肯できる。

前提知識と簡単な解説

遺贈及び贈与の減殺請求

遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定します(民法1029条1項)。
遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び1030条に規定する贈与の減殺を請求することができます(民法1031条)。

減殺請求権の消滅時効

遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から、1年間これを行わないときは、時効によって消滅し、相続の開始の時から10年を経過したときも、同様に消滅します(民法1042条)。

本判決の意義

遺留分減殺請求権の性質については、形成権と解する説と、請求権と解する説に分かれていました。本件の第一審判決は、減殺請求権の性質を請求権と解し、減殺請求権の意思表示をしたときから、6か月以内(民法153条)に裁判上の請求をしなかったため、時効により減殺請求権は消滅したと判断しました。
これに対して、本判決は、減殺請求権は形成権であると解し、「その権利の行使は受贈者または受遺者に対する意思表示によってなせば足り、必ずしも裁判上の請求による要はなく、また一たん、その意思表示がなされた以上、法律上当然に減殺の効力を生ずる」と判示しました。

追記:平成30年民法改正について

平成30年民法(相続関係)改正により、遺留分権利者の権利行使によって金銭債権が生ずるものとされました(民法1046条1項)。
改正法の下では、形成権としての遺留分侵害額請求権は遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ったとき時から1年間行使しないときは、時効によって消滅し(民法1048条前段)、相続開始の時から10年を経過したときも、同様に消滅するものとされています(民法1048条後段)。そして、遺留分侵害額請求権の行使によって生じた金銭債権については、通常の金銭債権と同様に、民法166条1項の規律に従って、消滅時効にかかることになります(堂薗幹一郎・野口宣大『一問一答新しい相続法』)。