被相続人が他人に貸していた土地を、複数の相続人が相続により承継取得しました。遺産分割が未了である間、相続人のひとりが、単独で、本件土地の賃貸借契約を解除して、土地の明渡しを求めることができるでしょうか。
結論
各共同相続人が単独で賃貸借契約を解除することはできません。
共同相続人の相続分の過半数で決めることになります。
判決文の抜粋
- “共有者が共有物を目的とする貸借契約を解除することは民法二五二条にいう「共有物ノ管理ニ関スル事項」に該当し、右貸借契約の解除については民法五四四条一項の規定の適用が排除される”
- “共有物を目的とする貸借契約の解除は民法二五二条但書にいう保存行為にあたらず、同条本文の適用を受ける管理行為と解する”
- “単独で本件貸借契約を解除することは、特別の事情がないかぎり、許されないものといわねばならない”
簡単な解説
1.遺産分割が終わるまでの権利関係
たとえば、ご兄弟で相続した場合のように、相続人が複数いる場合には、遺産分割が未了の間は、相続人の方々が遺産を「共有」することになります。
この「共有」の意味については議論があるものの、一般的には、民法の物権法に規定される共有(民法249条以下)と同じ意味と解されています。そのため、共同相続人間の権利関係については、民法249条以下の規定に従います。
2.共有物の管理について
そこで、共有物の管理についての民法の条文をみると、民法252条では、次のように規定されています。
「共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる(民法252条)」
つまり、
- 共有物の「管理に関する事項」は過半数で決する。
- ただ、「保存行為」であれば、各自が単独で行うことができる。
というわけです。
したがって、この条文だけをみれば、賃貸借契約の解除をする場合、解除を行うことが共有物の「管理行為」に該当する場合には、過半数で決することとなり、「保存行為」であれば単独で解除できるように読めます。
3.解除は単独でできる?
一方で、民法の別のところには、解除権の行使に関して、次のような規定もあります。
「当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から又はその全員に対してのみ、することができる(民法544条1項)」
この規定にしたがえば、相続人が複数いる場合には、共同相続人の「全員」で解除権を行使することになりそうです。
では、
- 民法252条と民法544条1項では、どちらの規定が適用されるのでしょうか。
- また、民法252条が適用されるとした場合でも、賃貸借の解除は、「管理に関する事項」に当たるのでしょうか、それとも「保存行為」に当たるのでしょうか。
4.判例の結論は?
最高裁は、
- 「民法544条1項の規定の適用が排除される」
- 「貸借契約の解除は管理行為と解する」
と判示しました。
そのため、相続した不動産を目的とする賃貸借契約の解除は、共同相続人の相続分の過半数で決定することとなります。
古い判例ではありますが、遺産分割がまとまらないという状況で、相続財産を管理するうえで直面する問題かと思い、この判例をご紹介することとしました。
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