遺産確認の訴えにおける当事者適格について、共同相続人のうち自己の相続分の全部を譲渡した者は、遺産確認の訴えの当事者適格を有しないと判示しました。
判決文(抜粋)
- 平成26年2月14日第二小法廷判決
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遺産確認の訴えは,その確定判決により特定の財産が遺産分割の対象である財産であるか否かを既判力をもって確定し,これに続く遺産分割審判の手続等において,当該財産の遺産帰属性を争うことを許さないとすることによって共同相続
人間の紛争の解決に資することを目的とする訴えであり,そのため,共同相続人全員が当事者として関与し,その間で合一にのみ確定することを要する固有必要的共同訴訟と解されているものである(最高裁昭和57年(オ)第184号同61年3月13日第一小法廷判決・民集40巻2号389頁,最高裁昭和60年(オ)第727号平成元年3月28日第三小法廷判決・民集43巻3号167頁参照)。しかし,共同相続人のうち自己の相続分の全部を譲渡した者は,積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する割合的な持分を全て失うことになり,遺産分割審判の手続等において遺産に属する財産につきその分割を求めることはできないのであるから,その者との間で遺産分割の前提問題である当該財産の遺産帰属性を確定すべき必要性はないというべきである。そうすると,共同相続人のうち自己の相続分の全部を譲渡した者は,遺産確認の訴えの当事者適格を有しないと解するのが相当である。
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前提知識と簡単な解説
共同相続の効力について
相続は、被相続人の死亡によって開始し(民法882条)、相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継し(民法896条本文)、相続人が数人あるときは、相続財産は、共同相続人の共有に属し(民法898条1項)、各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します(民法899条)。この「共有」は、民法249条以下に規定する「共有」とその性質を異にするものではないと解されています(最高裁昭和30年5月31日第三小法廷判決)。
各共同相続人は、遺産共有を解消するために、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができ(民法907条1項)、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、遺産の分割を家庭裁判所に請求することができます(民法907条2項本文)。
遺産確認の訴えの性質と判決の効力
最高裁は、昭和61年3月13日判決において、遺産確認の訴えの性質につき、「共有持分の割合は問題にせず、端的に、当該財産が現に被相続人の遺産に属すること、換言すれば、当該財産が現に共同相続人による遺産分割前の共有関係にあることの確認を求める訴え」であるとし、その判決の効力については、「当該財産が遺産分割の対象たる財産であることを既判力をもつて確定し、したがつて、これに続く遺産分割審判の手続において及びその審判の確定後に当該財産の遺産帰属性を争うことを許さず、もつて、原告の前記意思によりかなつた紛争の解決を図ることができる」と判示していました(最高裁昭和61年3月13日第一小法廷判決)。
固有必要的共同訴訟について
共同訴訟のうち、訴訟の目的が共同訴訟人の全員について合一にのみ確定すべき場合(民事訴訟法40条1項)を「必要的共同訴訟」といい、さらに必要的共同訴訟の中でも、共同訴訟人となるべき者の全員が訴え又は訴えられることが必要か否かによって、「固有必要的共同訴訟」と「類似必要的共同訴訟」に区別されると解されています。固有必要的共同訴訟では、共同訴訟人となるべき者の全員が訴え又は訴えられるのでなければ、当事者適格を欠き、訴えは不適法として却下されることになります。
最高裁は、平成元年3月28日判決において、遺産確認の訴えが「固有必要的共同訴訟」であることを判示していました(最高裁平成元年3月28日第三小法廷判決)。
相続分譲渡について
民法上、相続分譲渡の要件及び効果を直接に定めた規定はありませんが、民法905条が「共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者ニ譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。」と規定していることから、民法は相続分の譲渡を許容していると解されます。
譲渡の対象となる「相続分」については、判例は「積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分」であると判示しています(最高裁平成13年7月10日第三小法廷判決)。