遺産分割協議が、詐害行為取消権行使の対象となるかどうかが争われました。
判決の示した結論
遺産分割協議が詐害行為取消権行使の対象となると判示しました。
事案の概要
- 亡Dは、借地権を有する土地上に建物を所有し、当該建物(「本件建物」といいます。)において妻であるEらと居住していました。
- Dは、昭和54年に死亡し、その相続人は、E並びに子である上告人A1及びA2の3名です。上告人A1は昭和52年に、A2は同57年に、それぞれ婚姻し、その後、他所で居住するようになりましたが、Eは、本件建物に居住していました。
- 被上告人Xは、平成5年10月29日、F及びGを連帯債務者として、同人らに対して300万円を貸し渡し、Eは、同日、Xに対し、当該金銭消費貸借契約に係るFらの債務を連帯保証する旨を約しました。
- 本件建物の所有名義人は亡Dのままでしたが、FらのXに対する債務に基づく支払いが遅滞し、その期限の利益が失われたことから、Xは、平成7年10月11日、Eに対し、連帯保証債務の履行及び本件建物についての相続を原因とする所有権移転登記手続をするように求めました。
- E及びAらは、平成8年1月5日ころ、本件建物について、Eはその持分を取得しないものとし、Aらが持分2分の1ずつの割合で所有権を取得する旨の遺産分割協議を成立させ(「本件遺産分割協議」といいます。)、同日、その旨の所有権移転登記を経由しました。
- Eは、Xの従業員に対し、連帯保証債務を分割して長期間にわたって履行する旨を述べていたにもかかわらず、平成8年3月21日、自己破産の申立をしました。
判決文(抜粋)
- 最高裁平成11年6月11日第二小法廷判決
- 共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となり得るものと解するのが相当である。けだし、遺産分割協議は、相続の開始によって共同相続人の共有となった相続財産について、その全部又は一部を、各相続人の単独所有とし、又は新たな共有関係に移行させることによって、相続財産の帰属を確定させるものであり、その性質上、財産権を目的とする法律行為であるということができるからである。
前提知識と簡単な解説
遺産分割について
相続は、被相続人の死亡によって開始し(882条)、相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継し(896条本文)、相続人が数人あるときは、相続財産は、共同相続人の共有に属し(898条1項)、各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します(899条)。
各共同相続人は、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができ(907条1項)、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、遺産の分割を家庭裁判所に請求することができます(907条2項本文)。
遺産の分割は、第三者の権利を害する場合を除き(909条ただし書)、相続開始の時にさかのぼってその効力を生じるものとされています(909条本文)。
遺産分割協議においては、必ずしも法定相続分(900条、901条)のとおりにする必要はなく、特定の相続人に対して法定相続分以上の相続財産を取得させることもできると解されています。もっとも、判例によれば、「分割により相続分と異なる権利を取得した相続人は、その旨の登記を経なければ、分割後に当該不動産につき権利を取得したその旨の登記を経なければ、分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し、自己の権利の取得を対抗することができない」とされています(最高裁昭和46年1月26日第三小法廷判決(追記:平成30年改正後の民法899条の2も参照))。
詐害行為取消権について
詐害行為取消権は、債務者の責任財産を保全するため、一般財産を減少させる債務者の行為の効力を取り消して、債務者の一般財産から逸出した財産又は利益を取り戻すことを目的とする制度です(424条)。詐害行為取消権の要件は、①債務者が債権者を害する法律行為をしたこと(客観的要件)、②債務者及び受益者又は転得者が詐害の事実を知っていること(主観的要件)と規定されているほか(424条1項)、当該法律行為が財産権を目的とすることを要します(424条2項)。判例は、相続の放棄(939条)は、詐害行為取消権行使の対象とはならない旨を判示しています(最高裁昭和49年9月20日第二小法廷判決)。