養老保険契約において保険金受取人を「被保険者またはその死亡の場合はその相続人」と指定した場合は、被保険者死亡の時における相続人たるべき者個人を受取人として特に指定したいわゆる「他人のための保険契約」と解する、この場合には、保険金請求権は、保険契約の効力発生と同時に相続人の固有財産となり、被保険者の遺産より離脱している、と判示しました。
事案の概要
・訴外Aは、昭和30年12月26日、被上告会社との間で、被保険者をA、保険金受取人としては保険期間満了の場合は被保険者、被保険者死亡の場合は相続人として指定する内容の、養老保険契約を締結しました。
・Aは、昭和35年2月17日公正証書により、自己の所有財産全部を上告人に包括遺贈する旨遺言しました。
・Aは、昭和35年5月20日、死亡しました。
・Aの法定相続人には、姉B及び弟Cがいました。
判決文(抜粋)
- 最高裁昭和40年2月2日第三小法廷判決
- 本件養老保険契約において保険金受取人を単に「被保険者またはその死亡の場合はその相続人」と約定し、被保険者死亡の場合の受取人を特定人の氏名を挙げることなく抽象的に指定している場合でも、保険契約者の意思を合理的に推測して、保険事故発生の時において被指定者を特定し得る以上、右の如き指定も有効であり、特段の事情のないかぎり、右指定は、被保険者死亡の時における、すなわち保険金請求権発生当時の相続人たるべき者個人を受取人として特に指定したいわゆる他人のための保険契約と解するのが相当であつて、前記大審院判例の見解は、いまなお、改める要を見ない。そして右の如く保険金受取人としてその請求権発生当時の相続人たるべき個人を特に指定した場合には、右請求権は、保険契約の効力発生と同時に右相続人の固有財産となり、被保険者(兼保険契約者)の遺産より離脱しているものといわねばならない。然らば、他に特段の事情の認められない本件において、右と同様の見解の下に、本件保険金請求権が右相続人の固有財産に属し、その相続財産に属するものではない旨判示した原判決の判断は、正当としてこれを肯認し得る。
前提知識と簡単な解説
相続の効力
相続は、被相続人の死亡によって開始し(民法882条)、相続人は、相続開始の時から、被相続人の一身に専属したものを除き(民法896条ただし書)、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条本文)。
包括遺贈
遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができます(民法964条)。包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有するとされています(民法990条)。
遺贈は、その目的である権利が遺言者の死亡の時において相続財産に属しなかったときは、その効力を生じません(民法996条本文)。