目黒川の桜
玄関の扉をガチャリと閉めたとき、閑静な住宅街の遠く彼方から、鳥の鳴き声が聞こえてきた。暖かい陽の光を含んだ、のどかな風がふっと吹きぬける。春の風だった。
通勤電車から桜の木が見えるたびに、週末は桜を見に行こうと計画していた。桜の名所をいろいろと思案したが、目黒川を歩いてみることにした。
目黒駅で電車を降りて、権之助坂を下った先にある目黒新橋から目黒川を眺める。まるで桜の木が水を欲してかがんでいるかのように、川面に向かって枝が伸びている。
橋を渡る通行人も足を止めて、目黒川の桜を眺めていた。まだ満開じゃないねという話し声も聞こえてきた。そうか、まだ満開ではないのか。今でも十分に見事だけど、これより盛大に咲く姿も、見てみたい気がする。
浜離宮恩賜庭園
少し足を延ばして浜離宮恩賜庭園を訪れた。
回遊式の庭園を歩く。庭園の奥に進むにつれて、都会の喧噪は次第に消えていき、海浜の潮の香りが漂い始める。菜の花が見頃だった。地面を埋め尽くすほどの菜の花だ。空に聳える綺麗なビル群と、目の前で咲く一面の菜の花が不思議なコントラストを醸し出す。
浜離宮恩賜庭園内に隅田川を上る水上バスの発着場がある。私は切符を買い、水上バスを待った。浜離宮から乗船し、日の出桟橋を経由して、隅田川を上っていく。途中、隅田川にかかる橋をくぐり抜けるのだが、下から見上げる勝鬨橋や吾妻橋はなかなか迫力があった。川が増水していたら天井をこすってしまうのではないだろうかと余計な心配をする。川岸には綺麗に桜が咲いており、舟から眺める桜もよかった。
隅田川の桜
水上バスは浅草まで。浅草に降り立つと花見の客で賑わっていた。オレンジ色に点された提灯も遠くの方まで連なっていて、まるでお祭りのようだ。