相続財産の共有(民法898条)は、民法249条以下に規定する「共有」とその性質を異にするものではないと判示しました。

事案の概要

  • 本件不動産は訴外Aが所有していた。
  • 昭和12年8月13日、訴外Aの死亡により、訴外Bと訴外Cが各2分の1による遺産相続をした。
  • 昭和18年3月10日、訴外Cの死亡により、控訴人Xが家督相続をして、その共有持分を承継した。
  • 昭和18年9月11日、被控訴人Yが、訴外Bからその共有持分の贈与を受けたとして、その旨の登記をした。
  • 被控訴人Yは、本件不動産につき各2分の1の持分による現物分割、又はその競売による分割を、地方裁判所に請求した。

判決文(抜粋)

最高裁昭和30年5月31日第三小法廷判決
 相続財産の共有(民法八九八条、旧法一〇〇二条)は、民法改正の前後を通じ、民法二四九条以下に規定する「共有」とその性質を異にするものではないと解すべきである。相続財産中に金銭その他の可分債権があるときは、その債権は法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するとした新法についての当裁判所の判例(昭和二七年(オ)一一一九号同二九年四月八日第一小法廷判決、集八巻八一九頁)及び旧法についての大審院の同趣旨の判例(大正九年一二月二二日判決、録二六輯二〇六二頁)は、いずれもこの解釈を前提とするものというべきである。それ故に、遺産の共有及び分割に関しては、共有に関する民法二五六条以下の規定が第一次的に適用せられ、遺産の分割は現物分割を原則とし、分割によつて著しくその価格を損する虞があるときは、その競売を命じて価格分割を行うことになるのであつて、民法九〇六条は、その場合にとるべき方針を明らかにしたものに外ならない。本件において、原審は、本件遺産は分割により著しく価格を損する虞があるとして一括競売を命じたのであるが、右判断は原判示理由によれば正当であるというべく、本件につき民法二五八条二項の適用はないとする所論は採用できない。そしてまた、原審は本件につき民法附則三二条、民法九〇六条を準用したことも原判文上明らかであるから、これを準用しない違法があると主張する所論も採用できない。

前提知識と簡単な解説

昭和22年民法改正の前後における法令の適用関係

日本国憲法の制定に伴い、家督相続制度の廃止や配偶者の相続権の確立を内容とする民法改正が行われました。すなわち、昭和22年4月に「日本国憲法の施行に伴う民法の応急措置に関する法律」(昭和22年法律第74号。以下「応急措置法」といいます。)が成立し、同法は昭和22年5月3日に施行されました。その後、昭和22年12月に「民法の一部を改正する法律」(昭和22年法律第222号)が成立し、同法は昭和23年1月1日から施行されました(以下、「新法」といい、改正前の民法を「旧法」といいます。)。

応急措置法施行前に開始した相続については、原則として、旧法が適用されます(新法附則25条1項)。ただ、旧法の適用される場合においても、新法907条及び新法908条の規定は準用されるものとされています(新法附則32条)。

旧法1002条は「遺産相続人数人アルトキハ相続財産ハ其共有ニ属ス」と規定する一方で、相続編に遺産分割の方法については規定が置かれておらず、旧法258条(昭和22年改正の影響は受けていません。)が、共有者が共有物の分割を裁判所に請求したときは、「現物ヲ以テ分割ヲ為スコト能ハサルトキ又ハ分割ニ因リテ著シク其価格を損スル虞アルトキハ裁判所ハ其競売ヲ命スルコトヲ得」と規定していました。

昭和22年に成立した家事審判法及び家事審判規則では、家事審判規則109条が「家庭裁判所は、特別の事由があると認めるときは、遺産の分割の方法として、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対し債務を負担させて、現物をもつてする分割に代えることができる。」と定め、いわゆる代償分割が規定されました。もっとも、家事審判法の施行日である昭和23年1月1日の際に裁判所に係属していた事件については、家事審判法及び家事審判規則は適用されないものとされていました(家事審判法施行法26条1項)。つまり、すでに地方裁判所に提訴されていた本件では、家事審判法及び家事審判規則は適用されないこととなります。

以上の法令の適用関係を前提として、本件の遺産分割の方法として、民法258条を適用することが妥当であるかが、争われました。具体的に条文に即していえば、本来、遺産分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の職業その他一切の事情を考慮して分割するとされているにもかかわらず(新法附則32条において準用される民法906条)、共有(民法第二編第三章第三節)に関する規定に基づき、現物分割又は競売分割(民法258条)という方法のみによって、分割することが妥当なのかが問題となりました。

遺産共有の法的性質と本判決の位置付け

旧法1002条及びこれを踏襲した新法898条の「共有」の意義については、学説上、物権編に規定される共有(民法第二編第三章第三節)と同一に解釈してよいのかが議論されていました。品川孝次「遺産『共有』の法的構成―共有論と合有論の対立をめぐってー」に従えば、主な学説は次のように整理されます。

  • 共有説:遺産に属する個々の財産及び権利が共同相続人に共有的に帰属する。各共同相続人は遺産に属する個々の財産の上に持分ないし持分権をもっており、原則としてそれを自由に処分することができる。
  • 合有説(1):各共同相続人は遺産に属する個々の財産及び権利の上に持分ないし持分権をもつが、共同関係にある間はその行使及び処分が制限される。その限りで、持分権は潜在的観念的な存在にとどまり、これは合有関係である。
  • 合有説(2):相続財産全体が単一体としての特別財産を構成し、相続人の共同の所有の客体となる。各共同相続人はこの特別財産の上に処分可能な観念的持分をもつが、個々の財産については直接に持分ないし持分権を持たない。

本判決は、最高裁が共有説に立つことを明らかにしました。