不動産共有者の一人のみによる登記簿上の所有名義人に対する登記抹消請求の可否について、「保存行為」に当たることを理由として、不動産共有者の一人は、その持分権に基づき、単独で当該不動産につき登記簿上所有名義者たるものに対してその登記の抹消を求めることができる、と判示しました。

事案の概要

  • 訴外Aは、昭和21年9月30日、訴外Bより本件不動産を買い受けその所有権を取得した。
  • 本件不動産につき、昭和21年10月16日、売買名義で、訴外Bから上告人Y名義に所有権移転登記手続がされた。(なお、控訴審において、訴外Y名義に所有権移転登記手続がされているのは、訴外Aが自己の所有名義にしておく場合公租公課の多くなることをおそれて、実弟たるY名義に仮装して登記をしたことが認定されている。)
  • 訴外Aが昭和24年2月8日死亡し、その妻である被上告人Xと実母である訴外Cとが共同相続人となった。
  • 判決文(抜粋)

    最高裁昭和31年5月10日第一小法廷判決
     本件におけるがごとくある不動産の共有権者の一人がその持分に基ずき当該不動産につき登記簿上所有名義者たるものに対してその登記の抹消を求めることは、妨害排除の請求に外ならずいわゆる保存行為に属するものというべく、従つて、共同相続人の一人が単独で本件不動産に対する所有権移転登記の全部の抹消を求めうる旨の原判示は正当であると認められるから、論旨は採ることができない。

    前提知識と簡単な解説

    相続の効力

    相続は、被相続人の死亡によって開始し(民法882条)、相続人は、相続開始の時から、被相続人の一身に専属したものを除き(民法896条ただし書)、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条本文)。
    相続人が数人あるときは、相続財産は、共同相続人の共有に属し(民法898条1項)、各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します(民法899条)。この「共有」は、民法249条以下に規定する「共有」とその性質を異にするものではないと解されています(最高裁昭和30年5月31日第三小法廷判決)。

    共有物の管理

    民法249条以下の共有の規定によれば、共有者の管理に関する事項は、共有物の変更を加える場合(民法251条)を除き、原則として、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決するものとされていますが(民法252条本文)、例外的に、保存行為については、各共有者が行うことができるものとされています(民法252条ただし書)。

    本判決は、保存行為(民法252条ただし書)に当たることを理由として、共有者の一人は、単独で登記名義人の登記の抹消請求をすることができるとしました。